日活アクションとあの刑事ドラマ

「夜霧のブルース」(1963年、日活)
監督野村孝/原作菊田一夫/脚本國弘威雄石原裕次郎浅丘ルリ子山茶花究岩崎加根子小池朝雄芦田伸介/垂水悟朗/天坊準/郷硏治/沢本忠雄/松尾嘉代

全編に抒情というのか、哀愁がただよった佳品だった。
身籠もっていた妻が、何の罪もないのに船舶会社同士の競争の犠牲になって殺害されたのを復讐するため、殺害を計画した運送会社に乗り込み、社長(山茶花究)の前で過去から二人のなれそめを語り出す石原裕次郎夜霧のブルース [DVD]
ストーリーは、石原が山茶花究を脅迫しながら過去を語る現在と、その過去の回想シーンによって進行する。やくざの若い衆だった石原が浅丘ルリ子に一目惚れし、苦労して組から足を洗い、ようやく二人だけのささやかながら幸せな生活を送り始めたところに襲った不幸。
回想シーンが現実に戻るとき、かならず山茶花究の顔が出るので、山茶花がシーン転換のスイッチのようである。石原と浅丘の甘いラブ・ロマンスから、殺伐とした脅迫シーンへのスイッチには、あの悪相がふさわしい。
渡辺武信『日活アクションの華麗な世界』*1(未來社)によれば、宣伝プレス時点では、山茶花究のところに滝沢修が配されていたという。「こうした誤りは宣伝プレス発行後、脇役の配役が変更になるプログラム・ピクチャーの常」なのだという。
ついでに渡辺さんによれば、この映画は「ルリ子が大きなお腹をしている唯一の映画」だという。愛する者を失った人間の復讐心の激しさを強調するためか、裕次郎とルリ子のラブロマンスはかなり常套的である。
石原裕次郎は結局山茶花究を鳶口で殺害し、返り血を浴びながら、自分も彼の部下に刺し殺されるという悲惨な結末になる。シチュエーションはまったく違うけれど、裕次郎が血みどろになりながら倒れるシーンを観ていたら、「太陽にほえろ」の刑事たちの殉死シーン(マカロニ、ジーパンやテキサス)を突然思い出した。
太陽にほえろ」には、やはり日活アクションのある要素が流れ込んでいるということなのだろうか。