印象的な多々良純

「真実一路」(1954年、松竹)
監督川島雄三/原作山本有三/脚本椎名利夫/桂木洋子淡島千景山村聰/水村国臣/多々良純佐田啓二/須賀不二夫/市川小太夫毛利菊枝三島耕

子供を身籠もった女性を妻に迎え、生まれてきた女の子を自分の子として育ててきた実直が取り柄の男(山村聰)。子供を身籠もったまま相手に死なれ、別の男に妻として迎えられたものの、愛のない結婚に嫌気がさし、二人目の子供を産んだあと別れてカフエーのマダムをしながら発明家の男と暮らす女(淡島千景)。
そんな男女の間に生まれた長女(桂木洋子)と、歳の離れた長男(水村国臣)。皆自分に正直に、自らのやることを正しいと信じて実行する「真実一路」の人間ばかり。
川島雄三監督の文芸映画は少ないわけではないけれども、山本有三との組み合わせに何となく違和感をおぼえる。「これぞ川島雄三」という個性が何であるのか、ピタリと指摘できないのに偉そうだが、川島雄三らしくないのである。
この作品のなかで印象に残るのは、愛のない結婚という「偽り」から夫と別れた淡島千景と、その別れた妻に対し、彼女は自分が正しいと思って選んだ道を進んだのだから、戻ってくることを死ぬまで許さなかった山村聰との夫婦の間を取り持ち、またその間で悩む娘桂木洋子の相談に親身になって応じる叔父(淡島の弟)多々良純である。
先日亡くなられた多々良さんも脇役俳優としてさまざまな映画に出演しているが、これほど主役に近い役柄を演じた作品は初めて観た。多々良さんの代表作と言えば一般的に何が出てくるのかわからないが、わたし個人としては現在のところこの「真実一路」である。

真実一路 [VHS]

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