犬神家と小早川家

犬神家の一族」(1976年、角川春樹事務所・東宝) ※?度目
監督市川崑/原作横溝正史/脚本長田紀生日高真也市川崑石坂浩二高峰三枝子/三条美紀/草笛光子島田陽子あおい輝彦小沢栄太郎地井武男川口恒川口晶金田龍之介小林昭二加藤武大滝秀治/寺田稔/横溝正史坂口良子岸田今日子三木のり平三國連太郎

犬神家の一族」は何度目になるかわからないけれど、少なくとも「はてな」に記録の場を移してからは初めてのようだ。ほとんど筋はわかっているようで、まだまだ見過ごしていた細部があるものである。
そもそも冒頭最初に殺される弁護士を古館弁護士だとすっかり勘違いしていた。この旧作の場合小沢栄太郎である。新作は中村敦夫が演じるそうだが、やはり小沢栄太郎の存在感は他の何者にも代えられない。犬神家の一族 コレクターズ・エディション (初回限定生産) [DVD]
今回気づいたのは二点。犬神佐兵衛翁の遺言書読み上げの場面で、サングラスをかけた謎の男が同席している。遺言書を読んでいくうち、この男が「犬神奉公会」*1の人間であることがわかる。名のある役者さんが演じているわけではなく、たった2シーンにしか登場しないのだが、気になる存在だった。
いま一人気になったのが、高峰三枝子の生母お園。演じているのは原泉。何度も観てきたが、「こんな人も出てたのか」と初めて気づき、自分の映画鑑賞態度を疑ってしまった。この老婆は3シーン。回想シーンで、少女時代の松子(高峰三枝子)に別れを告げるシーンも老婆が若作りをして演じているのが不気味。好色家の犬神佐兵衛翁はこういう女性にも手をつけるのかと疑問が沸いてしまう。

小早川家の秋」(1961年、宝塚映画・東宝
監督小津安二郎/脚本野田高梧小津安二郎中村鴈治郎(二世)/原節子司葉子新珠三千代小林桂樹加東大介森繁久弥浪花千栄子/団玲子/白川由美宝田明杉村春子東郷晴子山茶花究藤木悠笠智衆望月優子/島津雅彦

没落しつつある大店の造り酒屋の一家の物語。血縁関係の説明がないまま物語が進行するので、観ながら関係を理解するのに難渋した。途中説明があったのだけれど、最後まで杉村春子(名古屋のおばさん)の立場(鴈治郎との関係)がわからなかった。
小津監督が東宝に来て撮った作品である。新珠三千代小林桂樹加東大介森繁久弥白川由美宝田明・団玲子といった東宝のスター俳優たちがあの小津監督の独特の画面に出ていることに違和感があり、その違和感が愉しい。笠智衆望月優子の使い方も贅沢だ。小早川家の秋 [DVD]
この物語も、二人の女性の結婚話が登場人物たちの関心の中心となって進行する。長男の未亡人である原節子と、末娘の司葉子がそれである。小早川家のなかでこの二人の女性同士は気が合うらしい。
原節子は「私のようなおばあさんが…」というのが口癖で、司は原がこのフレーズを口にしたら100円を貰うという約束をしている。美しいけれども、そろそろ寄る年波が顔にあらわれつつある雰囲気の原節子に口にさせるから、なかなか説得力がある。
タイトルは「秋」だが、作品の時季は盛夏から晩夏にかけての頃とおぼしい。鴈治郎が急逝して、季節も家も「秋」を迎えるという寓意だろうか。それはともかく、登場人物は映画のなかでひっきりなしに団扇と扇子を使っている。
小早川家と、鴈治郎の昔の女である浪花千栄子の家では、部屋を仕切る障子がふつうの白い紙を使ったもの(明障子)でなく、いわゆる「簾障子」となっているのが涼しさを感じさせる。小早川家では二階の司葉子の部屋まですべて簾障子だ。
当然これは季節が涼しくなってきたらふつうの障子に取り替えるのだろうから、贅沢きわまりない、とわたしは思うのだが、はたしてこれは贅沢を表す記号なのかどうかすら、現代の人間にはわからなくなっているのが悲しい。
小早川家のような旧家だから簾障子を使っているのか。でも浪花千栄子の家でも出ているから、別にそうでもないかもしれない。あるいは関西だけのものなのか。小津が使った簾障子という記号が、当時の地域性もしくは階層性をいかに暗示するものなのか、わからないのがもどかしい。
川本三郎さんの『映画の昭和雑貨店』シリーズや、小泉和子さんの『室内と家具の歴史』*2(中公文庫)を調べても出てこないから、言及の必要もないほど一般的な風俗だったのだろうか。

*1:当初「ほうこう」を佐賀鍋島の「鍋島報效会」によりそちらの字を当てた。その後角川文庫版のテキストを調べたところ、「奉公」となっていたので訂正する次第である。ちなみに「報效」とは、「功を立てて、恩にむくいること」の意である(『日本国語大辞典 第二版』)。

*2:ISBN:4122045851