倍賞千恵子の啖呵

「白昼堂々」(1968年、松竹)
監督野村芳太郎/原作結城昌治/脚本野村芳太郎吉田剛渥美清藤岡琢也倍賞千恵子有島一郎新克利生田悦子フランキー堺/大貫泰子/三原葉子/高橋とよ/田中邦衛佐藤蛾次郎穂積隆信/桜京美

九州の廃坑になった炭坑部落に住む人々が「万引き集団」となって全国の百貨店を荒らし回る。その首領が渥美清。渥美のかつてのスリ仲間で兄貴分だった藤岡琢也は、刑事有島一郎の周旋でデパートの保安係となり、逆にスリを捕まえる立場になっている。物語は渥美らの集団と、犯人逮捕に執念を燃やす有島一郎との間で繰り広げられる追いかけっこをメインに流れてゆく。
主演は渥美清となっているが、もっとも印象に残るのはむしろ藤岡琢也である。スリから足を洗い、妻と年頃(高校生)の娘を養うため、保安係になっている。娘の将来のため自分の過去を知られたくないいっぽうで、かつての仲間渥美らへも協力するあたりの気持ちの揺れ。白昼堂々 [DVD]
藤岡琢也の妻役の女性、どこかで見たことがあるなあと思っていたが、これを書くため出演者を調べていて三原葉子と判明し、驚いた。言われてみればそうだ。映画のスタッフロールではまったく見過ごしていたのだ。「地帯シリーズ」の色っぽさはどこへやら、ふつうのおばさんなのであった。
渥美の集団で唯一の若い娘が生田悦子。彼女にちょっと気がある刑事に新克利。彼は常磐の廃坑出身で、家族はハワイアンセンター(映画では別の名前で呼んでいたように思う、現スパリゾートハワイアンズ)で働いていると言っていた。このところ話題になっている松雪泰子・南海キャンディースのしずちゃんらが出演する新作映画「フラガール」はこの常磐ハワイアンセンターをモデルとしているとの由。
閑話休題藤岡琢也とともに印象深いのは倍賞千恵子。一匹狼でスリを働いていたが、渥美・藤岡の誘いで「一年契約」で仲間に入る。渥美が倍賞に惚れ、これまた「一年契約」で結婚するというのが面白い。きりっとして気の強そうな役で、最後渥美が藤岡とともに捕まり、九州の家の留守を預かっているときに、警官に見せる啖呵に迫力あり。“兄想いのさくら”とこの役と、倍賞さんはどちらが本領なのだろう。
ちなみに小林信彦さんは『おかしな男 渥美清*1新潮文庫)のなかで、「しっかりした作品」「社会派の味もある快調なエンタテインメント」と好意的に評価している。