好色な私立探偵

「死の十字路」(1956年、日活) ※二度目
監督井上梅次/原作江戸川乱歩/脚本渡辺剣次三國連太郎新珠三千代大坂志郎三島耕芦川いづみ/安部徹/沢村國太郎/藤代鮎子/多摩桂子/小林重四郎

スカパーの情報誌をめくっていたら、たまたま目に入って慌て喜びチェックした。これまでスカパー(わが家の場合はケーブルテレビ経由)のチャンネルでは、衛星劇場チャンネルNECO日本映画専門チャンネル中心にチェックしており、最近そこにホラーTVが加わったばかりだった。
ホラーTVは追加料金を払わなければならないが、幸いこのVパラダイスはデフォルトで(つまりケーブルテレビ毎月の料金内で)観ることができるのが嬉しい。このチャンネルは名前のとおり「Vシネマ」中心で、その他アクション物、アイドル物、韓国ドラマがメインだったから、これまでまったく観たことがなかったのだ。そこでこんな嬉しい企画があるのだから、たまらない。
そもそも「死の十字路」は去年ラピュタ阿佐ヶ谷で初めて観て、すこぶる気に入った映画だったのである(→2005/12/3条)。日活作品ということもあり、いずれチャンネルNECOで放映されればぜひ録画し再見したいと思っていたものだったから、思いがけない贈り物だった。
あらためて「死の十字路」を観直すと、やはり少しもゆるみがない傑作であった。三國連太郎もいいのだが、やはりこの映画は刑事あがりの私立探偵大坂志郎に尽きる。三國連太郎は社長秘書の新珠三千代を愛人にしているのと同じく、大坂志郎は探偵秘書の多摩桂子を愛人にして事務所に住まわせている。好色なのだ。
失踪した兄とそっくりな探偵の巧みな話術に惹き込まれ、事務所まで連れてこられたすえに捜査依頼をさせられてしまった芦川いづみ大坂志郎の会話。

大坂「あなたはたぶんオーデコロンをお使いですね。」
芦川「あら。よくご存じですのね。」
大坂「商売柄ね。…しかし何ですね。オーデコロンを常用する女性にはロマンチストが多いですね。恋を求める人、恋をしてる人、恋の思い出に酔っている人…。みんなオーデコロンを愛用してますよ。」
芦川「あら。何かの宣伝みたい。」
大坂は芦川いづみの肩をそっと撫でさすりながらこのような話をする。好色な目つきである。芦川が辞去したあと、「きれいな子ね」と愛人の秘書が嫉妬めいた言葉を漏らし、つづけて「あたしもあの手だったわ」とつぶやく。探偵は同じ手で女を口説いているのだ。
脚本は乱歩の原作の原案を作った渡辺剣次だから、原作にもこんなお洒落な会話があるのかと探ってみたところ、そのままの台詞はなかった。かわりに探偵はより好色で、依頼人を舐め回すような視線で見つめている。映画ではこの好色ぶりが仕草と台詞で表現されていることになる。
好色で強請りも辞さない刑事あがりの悪徳探偵。でも泥臭くなく洗練されてモダンな雰囲気。褒めすぎかもしれないけれど、やっぱり大坂志郎は素晴らしい。
死の十字路 [VHS]

死の十字路 [VHS]