木々高太郎の心理的恐怖

  • 角川恐怖劇場@HORROR TV(録画HDD)
「三面鏡の恐怖」(1948年、大映
監督久松静児/原作木々高太郎/脚本高岩肇久松静児木暮実千代上原謙/新宮信子/滝花久子/水原洋一/宮崎準之助/船越英二

日本全国を電化するという夢をもつ事業家上原謙は、恋人の木暮実千代を捨て、社長令嬢と結婚することで社長の跡取りとなる。社長の死去後その椅子に座り、夢の実現に向かって山間にダムを建設することに奔走する。
結婚後妻も死亡し、家に残されたのは義妹(新宮信子)と義母(滝花久子)。義妹は上原に好意的に接する。木暮は上原にふられたあと会社の監査役である水原洋一と結婚するが、数年後別れ、心臓の病で急死する。
ある日上原のもとに木暮の妹を名乗る女性(木暮の二役)が訪ねてくる。かつての恋人と瓜二つなのに驚きながら、やがて二人は結婚することになる。
恋人をあっさり捨てて実をとるのも「おいおい」だが、瓜二つの妹と結婚してしまうのも考えものだ。題名の「三面鏡の恐怖」とは、恋人が死んでおらず、妹と偽って自分のもとにやってきたのではないか、そんな恐怖を抱いた上原が、妹が姉の形見だとして持ち込んだ三面鏡に映った彼女の姿に姉の幻影を見ておののいたあたりに由来する。
姉の元夫である水原は姉妹別人であることを疑い、元夫だからこそ知っている証拠を木暮に突きつけようとする。結局水原は誰かに殺害されてしまい、木暮(妹)が疑われることになるが、同一人物であることを強く否定しながら、最後には心臓弁膜症の悪化で死んでしまうのだった。
別人なのか、同一人物なのか、謎が宙吊りされたまま映画は終わる。この作品の「恐怖」は、死んだはずの人間が瓜二つの妹に身をやつして元恋人と結婚するというあたりの心理的なものなのだが、それにしてもあまり怖くはない。木々高太郎の原作もこんなものなのだろうか。
殺人事件を捜査する気鋭の刑事船越英二は一年前にデビューしたばかりで、まだ25歳と若々しい。ネットで調べていて驚いたのだが、現在船越英二は湯河原で温泉旅館を経営しているのだそうだ(→旅荘船越)。いや、この言い方は必ずしも正確ではない。旅館はすでに俳優現役時代の昭和40年から経営していたらしく、ホームページを見るといまでは「船越英二経営の旅館」というより、「船越英一郎の実家」として売り出している。