母性本能をくすぐるタイプ

「女を忘れろ」(1959年、日活)
監督舛田利雄/原作藤原審爾/脚本舛田利雄・山崎巌/小林旭浅丘ルリ子南田洋子金子信雄/安部徹/牧真介/弘松三郎

小林信彦さんは、この映画を高く評価している。

中でも、「女を忘れろ」は、愛する娘(浅丘ルリ子)のために、特殊機関員となりバンコックに身売りする、という男(旭)の〈献身〉のパターンが初めて現れた佳作である。(「戦後日本映画史の狂い咲き」ちくま文庫『映画を夢みて』所収)
先に観た「銀座旋風児」がちょっと気の抜けた映画だったのにくらべ、この映画は面白かった。小林さんも「銀座旋風児」を褒めていなかったので、同じような印象を持ったと喜んだのである。
筋の大要は小林さんの文章に尽くされている。ただわたしが面白く感じたのは、小林旭浅丘ルリ子のために尽くそうとするまでのストーリーだった。小林にはすでに同棲している年上の女性(南田洋子)がいるのである。そこにあるきっかけで女子大生の浅丘ルリ子を知り、南田を捨て浅丘を選んでしまう。もちろん南田は最初は抵抗する。情の深い年上女性像が見事に表現されている。小林旭は童顔だから、さぞや年上女性は放っておかないだろうと、納得させられるのである。
良家の令嬢だった浅丘だが、父の死後、父にお世話になったという建設会社社長安部徹によって財産をむしり取られていく。世間知らずの母は、浅丘とともに遺産でアパートを建て、家賃収入で暮らしていこうとするのだが、アパート建設を請け負った安部は、工期遅れを資金不足のせいにして、そのお金を自分の懐に入れるという悪辣な人物。
さらに安部はお金だけでなく、浅丘本人にまで迫る。そんな悪人を演じさせて安部徹は一流で、ねちねちと浅丘を追いつめるあたりの安部徹にしびれるのである。小林旭はそれに我慢ならず、暴力団のボス金子信雄に依頼して、安部の企みをストップさせようとする。その代償として、浅丘をも捨て、金子の下で諜報員としてバンコクに渡らざるをえなくなるのである。
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