リクツはいらない?

日活アクションの世界

「麻薬3号」(1958年、日活)
監督古川卓巳/原作五味康祐/脚本松浦健郎/長門裕之南田洋子大坂志郎/白木マリ/河野秋武/二本柳寛/近藤宏高原駿雄/植村謙二郎/西村晃/丘野美子/高品格

最近日活映画ばかり観ているような気がするが、そこにきてまたその世界に深入りさせるような企画が始まった。仕事帰りにさっそく立ち寄る。予想していたほど人がいないが、日活映画にしては地味な長門・南田カップル主演の映画ゆえなのか。
逆にわたしとしては、そういう映画こそひょっとして面白いのではないかと期待してやってきたのだけれど、まあ期待ほど上出来というものではなかった。
舞台は神戸。元町の裏通りで「文化レポート社」という、他社の新聞を切り貼りするいんちきタブロイド紙を発行する会社を任されたチンピラが長門裕之。不景気のおり、社員募集に大勢の人が集まる。そこで引っかかったのが大坂志郎*1。無精髭の冴えない中年男で、前職は女学校教師。教師を辞めたものの、病気がちの家族を養うため働かねばならないということを長門に力説し、採用される。謹厳実直な性格で、長門と正反対。
そこに、ある男を捜して東京から南田洋子がやって来る。長門と南田はそれぞれお互い一目で惹かれあう。まずこのあたりが不可思議だ。男を捜しに来たはずなのに、長門を好きになってしまう。男が殺人の罪で自首したことがわかったあとは、すっかり長門の女になり、彼の帰りを待ちつづけ、そのあげくこらえかねて睡眠薬自殺を図る。なぜ自殺しなければならないのか、これまたわからない。
ヤクザのボス(二本柳寛)のもとに乗り込み、銃を預けられて突然それを女(白木マリ)に向けて撃ち放つ長門の行動も不条理めくし、撃たれても逆に長門に好意をもってしまう白木(この映画ではなかなか印象的)の思考回路も不可解だ。彼らの行動を理屈で理解しようというのがそもそも間違っているのかもしれない。この作品のなかで、理屈で動いているのは大坂志郎近藤宏の二人であり、わたしはその二人に惹かれたのだった。
病気の妻のために働きに出て、さっそく長門に前借りを懇請する大坂。ボスに長門を殺せと言われながら、足を洗ってカタギになりたいという長門の気持ちを理解し、しかし自分は勇気がないからそれができないと嘆き、長門を逃がす近藤。砂浜での長門と近藤の格闘シーンは息を呑む。
ストーリーに難点はあるものの、舞台となった神戸の風景がそれをカバーする。戦争の傷跡が残っているような豪邸の廃墟。その地下にある麻薬の巣窟の頽廃的雰囲気。表通りから迷路のような石畳の路地を入ると広がる裏通りは危険な雰囲気が漂う。また六甲山の麓にある住宅地の坂道。荒廃した山肌に広がる、日本らしくない墓地の風景。見所がないというわけではない。

*1:フィルムセンターのパンフレットにある紹介文にちゃんと大坂の名前が出ているのに、キャスト一覧では日守新一に間違えられているのがかわいそう。