森雅之の頭頂部

• 「監督 黒澤明の仕事」＠日本映画専門チャンネル（録画HDD）

「悪い奴ほどよく眠る」（1960年、東宝・黒澤プロダクション）

監督黒澤明／脚本小国英雄・久板栄二郎・黒澤明・菊島隆三・橋本忍／三船敏郎／森雅之／香川京子／三橋達也／志村喬／西村晃／加藤武／藤原釜足／笠智衆／宮口精二／三井弘次／三津田健／中村伸郎／松本染升／山茶花究／菅井きん／賀原夏子／沢村いき雄／田中邦衛

この映画が一般的にどのような評価がなされているのか、わたしは知らない。的はずれかもしれないけれども、建設工事をめぐる政官財の癒着といういまでも尽きない汚職問題を鋭く暴きながら、物語としては勧善懲悪、仇討ち物というまことに日本人好きする構造をもった、エンタテインメントとしてまことに見ごたえある作品だった。
まるで歌舞伎のように三船敏郎が「実は…」と正体を明かすあたりまでのサスペンスは無類かつユーモラスで、身投げして死んだと見せかけた藤原釜足（課長補佐）を生かしておき、あとで小心者にして小悪党の西村晃を脅すときの道具として使うあたり、見ながら笑ってしまった。追いつめられて頬がげっそりこけ、被害妄想を抱いて発狂寸前までいく西村晃迫真の演技。そしてその上にいてふてぶてしく小憎らしい志村喬の部長。志村喬をもっととっちめろと、三船・加藤武コンビに感情移入してしまうほど。
森雅之（日本未開発土地公団副総裁）―志村喬（部長）―西村晃（課長）―藤原釜足（課長補佐）という悪の枢軸の階層性が見事にはまっている。たしか藤原釜足の家は雑司ヶ谷だった。他の人の家もタクシー券の行き先で明らかになっていたはずだが、忘れてしまった。このあたりにも如実に階級があらわれていたような気がする。
この映画最大の悪は森雅之だろう。真の悪人はこうでなくちゃいけないという堂々たる悪人ぶり。そんな老け役をやる年齢でもないだろうに、頭髪の脇のほうだけまったくの白髪で、頭頂部が真っ黒、真ん中から分けているという妙な印象的な髪型だった。頭頂部の黒々とした部分は河童のお皿を想像すればいい。ラストで電話に向かって深々とお辞儀する頭頂部の黒さと、中心部に縦に入る分け目に森雅之の悪が象徴されている。