芦川いづみの引退作

「孤島の太陽」(1968年、日活)
監督吉田憲二/原作伊藤桂一/脚本千葉茂樹樫山文枝勝呂誉芦川いづみ宇野重吉前田吟二木てるみ/浜村純/下條正巳/嵯峨善兵/浦辺粂子

この映画が芦川いづみの最後の出演作品、つまり引退作であるという。高知の孤島沖ノ島に赴任した保健婦*1樫山文枝が主人公。最初は閉鎖的な島社会になかなか受け入れてもらえなかったが、熱心で溌剌と明るい仕事ぶりに少しずつ島民は彼女に心を開きはじめる。数年後転勤話が出て一度は転勤を決意するも、島民たちの熱意にあふれた引き留めに心動かされ、島にとどまる決意をする。
芦川いづみ養護学校樫山文枝を教えた恩師の役。また保健婦を各地に派遣する人事を考える立場にもあるらしい。分別ある大人の役というかたちで、年齢相応ということなのだろう。若き芦川いづみの姿に魅せられた人間としては、溌剌と若い樫山文枝と並ぶと、色褪せた雰囲気に気落ちしないといったら嘘になる。
童顔ゆえか、年齢を重ね成熟した女性の役柄には違和感がある。痛々しく見えてしまう。吉永小百合はともかく、浅丘ルリ子北原三枝の現在の姿を見ると時間の残酷さを感じてしまうから、藤竜也と結婚して引退したのが正解だったのかもしれない。
中平まみさんが『ブラックシープ 映画監督「中平康」伝』*2ワイズ出版、→5/30条)をまとめたさい、中原早苗さん(故深作欣二監督夫人)は積極的に協力してくれたのに対し、吉永小百合を介して取材を申し込むと芦川さんは「日活時代のことはどなたにもお話してませんから」と断られたという。
あまりにも惜しいことである。引退の時何かいやなことでもあったのか。芦川いづみの目で見た日活黄金時代の話を知りたいとはわたしだけではあるまい。

*1:この保健婦という資格の人は、医師・看護師(婦)とどう違うのか、わからない。

*2:ISBN:4898300103