佐分利信謎の自殺

「泉」(1956年、松竹)
監督小林正樹/原作岸田國士/脚本松山善三有馬稲子佐田啓二佐分利信桂木洋子加東大介/小林トシ子/夏川静江/織田政雄/小川虎之助/西村晃内田良平渡辺文雄/山本和子/大河内信敬

別荘地の用水をめぐる開発者側と地元農民との抗争という社会問題が縦軸になっているのだが、映画のテーマとしてこれがポイントなのか、メロドラマがポイントなのか、はっきりしない。岸田國士だから、原作はメロドラマ主体なのだろうか(というのはわたしの勝手な思いこみ)。
華族(伯爵)の佐分利信と、彼の秘書有馬稲子が別荘にいる。佐分利は妻と別居中。佐分利は有馬に気があると思いきや、彼女の挑発的行為に侮辱されたと急に猟銃自殺してしまう。映画では唐突にすぎる。短慮としか言いようがない。
別荘には少壮植物学者の佐田啓二が調査のため滞在しており、有馬とお互い気がある様子。佐田は農民のために新しい水源を探すことに極力しようとする。この有馬と佐田の関係も煮え切らない。お互い惹かれているとおぼしいのだが、会うたびに口論になり、(佐田のほうから)喧嘩別れしてしまう。
いっぽう佐田を激しく慕う桂木洋子がいるのだが、佐田は有馬に気があるので彼女からのアプローチを拒否してしまう。ところが有馬を諦めたとたん、自分には桂木洋子しかいないと翻意するのもちょっと唐突。桂木はこの佐田の翻意を受け入れないのだが。佐田が桂木の家を訪れると、絵描きの父親がやんわりと断りを入れる。この父親役は大河内信敬。本物の画家で、元華族理化学研究所所長を務め、『味覚』の著者でもある大河内正敏の次男にして女優河内桃子の実父。なぜこのように特別出演したのか。
加東大介の悪役も珍しい。佐分利信自殺のあと、別荘と土地を引き継ぐ不動産会社社長で、農民との間の用水争論の当事者となる。いっぽう有馬稲子を妾にしようと再三アタックするが、その都度拒否されてしまう。
有馬稲子桂木洋子も、この頃の人たちは洋服も和服もいずれも似合うので、惚れ惚れしてしまう。