石原裕次郎と木村拓哉、あるいは主役と脇役

鷲と鷹」(1957年、日活)
監督・脚本井上梅次石原裕次郎三國連太郎浅丘ルリ子月丘夢路長門裕之/二本柳寛/沢村國太郎/柳沢真一/西村晃/安部徹

隙間の時間を利用しながら、三日がかりで観終えた。チャンネルNECOでは石原裕次郎デビュー50周年を記念して代表30作品を放映中のうえ、NHK-BS2でもときどき思い出したように石原裕次郎作品を流してくれる*1。ハードディスクには次々と録画がたまり、いよいよ残り容量が気になりだしたけれども、安易にDVDに保存することにも躊躇をおぼえる。
DVD-Rも一枚100円を切った時代、右から左へDVDに移せば問題ないのだろうが、べつにケチっているわけではない。積ん読本を数多抱えた人間が、古本屋の店先で購入を迷うのと同じように、これからの人生で読むか読まないか、観るか観ないかの切実な判断を強いられる年齢になってきたといえようか。DVDだって、ビデオより薄いとはいえ、一定の空間を占めることには変わりない。増えればそれだけ居住空間を圧迫するのは本と同じ。
となると、ハードディスクに録りためた映画をどんどん観て、消去する。これしか方法はない。ところが凝り性というかコレクター気質というか、せっかくこれだけ石原裕次郎作品をたくさん録ったのだから、年代順に観てゆかねば気にすまなくなってきたのである。デビュー作「太陽の季節」や、次の「狂った果実」は未見のくせに、いっぽうで59年の「若い川の流れ」や60年の「あした晴れるか」は映画館で観てしまったのだが、まあこれは仕方ないと諦め、「月蝕」「勝利者」ときて、「鷲と鷹」を今回観たのだった。
流れとしては、「勝利者」でアクション映画の主演の地位を確固たるものにした石原が、同じ監督(井上梅次)の海洋アクションに挑み、人気を不動にしたと言われている。この映画での石原は船乗り役なのである。
未見だが「紅の翼」「天と地を駈ける男」ではパイロット役、「街から街へつむじ風」では医師役、「若い人」では先生役、「あした晴れるか」はカメラマンなどなど、スターゆえに様々な立場、職業の役をこなす様子を見て、キムタクを想起せずにはいられなかった。キムタクもパイロットをやったり、レーサーをやったり、検事をやったり、いろいろな役を演じている。スターは大変である。
いや、大変なのはスターだけでない。脇を固める役者陣も同じだ。とりわけ昔の日本映画の場合、映画会社という制約があるから、鹿島茂さんではないが、脇役者の顔ぶれはほとんど同じ。今回の「鷲と鷹」を観ても、西村晃や安部徹といった日活映画でおなじみの脇役陣が石原と同じ船乗りを演じている。しかも二本柳寛は、石原に親の仇と恨まれる悪玉キャプテンなのである(その娘が浅丘ルリ子)。
肝心の映画だが、「勝利者」と比べるとどうも散漫な印象だった。石原を追いかけて同じ船に潜入するあばずれ女というわけのわからない役柄を月丘夢路が演じている*2石原裕次郎浅丘ルリ子はあっさりと恋に落ちてキスしてしまうし、ちょっと緊迫感がない。
個人的にこの映画を観て「おおっ」と盛り上がったのは、冒頭も冒頭、二本柳キャプテン(長門裕之が一等航海士で、実父沢村國太郎が老船員というのもすごい)の船に、まず石原が船員組合から派遣されて乗り込んでくる。そしてその直後、同じく船員組合から来たと言って半裸の三國連太郎がやってきて、二人はいきなり殴り合いの喧嘩を始めるシーンだった。三國連太郎石原裕次郎より10歳くらい年上らしいが、この二人の対照的なスター俳優のぶつかり合い、そのシーンにドキドキできたから、全体は目をつぶろう。
鷲と鷹 [DVD]

*1:5日には岡田真澄さん追悼ということで、石原と共演した「夜の牙」が放映された。

*2:月丘さんが井上監督と結婚したのは翌58年らしい。