左幸子の太い眉毛

「女中ッ子」(1955年、日活)
監督田坂具隆/原作由起しげ子左幸子/伊庭輝夫/轟夕起子佐野周二/高田敏江/細川ちか子/東山千栄子宍戸錠田辺靖雄

秋田の田舎から東京に出てきた女性(左幸子)が、世田谷の家に女中奉公して、様々な事件と出くわすというホームドラマ。世帯主佐野周二は時計会社の総務部長。妻轟夕起子と息子二人、妻の姪の五人で暮らしている。
左が佐野の家にやって来たきっかけというのは、修学旅行のときデパートで買い物をしていたら財布をなくしたことに気づき、買おうとしていた「ビニールのハンドバック」を代わりに轟に買ってもらったという縁。左は轟にお礼の手紙を出したところ、「東京に来たら遊びにいらっしゃい」という社交辞令を真に受けて本当に来てしまった。左の顔を見て困惑顔の轟。
轟夕起子という女優さんは、宝塚出身で若い頃はさぞ美人だったのだろうと思わせる顔立ちをしている。黒澤明監督の「姿三四郎」を観たことがないから若い頃は知らないのだけれど、個人的には「青春怪談」(市川崑監督)の飛んでるお母さんのコミカルな演技や、「洲崎パラダイス 赤信号」の悲劇的な居酒屋の女将の役が印象深い。
この映画を観ると、押しかけてきた左に苦い顔をしたり、子供が拾ってきた子犬を嫌い、草履を食い破られたことに腹を立てて犬を捨てさせたり、愛用のコートを左が隠し持っていた(これには別の事情がある)ことを発見し、左に暇を与えたりと、ちょっと敵役的な、いいところの奥様という役柄がピタリとはまっている。同時代(この昭和30年頃)、世間一般の映画ファンが轟夕起子という女優に対して持っていたイメージは、たぶんこの映画の役柄のようなものなのではないかと邪推するのである。同時代の評価はとても大事だと思うのだけれど、それを知るすべがなく残念至極。
左に好意を寄せる次男をいじめる男の子が憎たらしさ満点。その子供の父親は佐野の会社の常務で、母親が細川ちか子。なぜか子供と母親二人ともこてこての関西弁を喋る。母親はともかく、息子まで世田谷にいて関西弁もなかろうと思うのだが、やはりこの時代、敵役の典型が関西弁なのだろうか。細川のネチネチした関西弁が抜群。
左幸子の眉毛が濃い。自分も眉の手入れなどしたことがないのだが、ゲジゲジ眉毛は田舎者の野暮ったさに通じるのだろうな。ちょっと話はずれるが、歌舞伎でこれから処刑されるといった罪人(たとえば「梶原平三誉石切」)の眉毛は遠目から見てもゲジゲジで目立つのである。
若くて細い宍戸錠が、子供たちの家庭教師であり姪(高田敏江)の恋人でもある学生の役で登場する。