三人の刺客

「黒い賭博師 悪魔の左手」(1966年、日活)
監督中平康/脚本小川英・山崎忠昭小林旭/広瀬みさ/二谷英明大泉滉横山道代/谷村昌彦/天坊準/ジュディ・オング原泉/鈴木やすし/神田隆/郷硏治

回教の国パンドラ王国は賭博の国で、日本の大使館地下に秘密の賭博場をつくり、そこで日本の富を吸い上げようと画策する、という他愛のないストーリー。それを主導する「プロフェッサー」が二谷英明で、彼は日本一の賭博師として名高い小林旭に三人の有能な刺客を送り込み、賭博勝負をもちかける。
ストーリーは他愛ないものだが、一つ一つのシーンに(現在から見れば)面白いものがあって、愉しめた。二谷は小林旭の賭博のパターンを知るため、「電子計算機」に彼のデータを分析させようとする。そのデータの元が紙にパンチ穴を開けた媒体であることが時代を感じさせる。
三人の刺客というのが、それぞれ得意な賭博があるうえ、キャラクターも際立っていて素晴らしい。当然彼らは皆小林旭に敗れるのだが、負けた瞬間、どこからともなく毒針がシュッと飛んできて首筋に突き刺さり、一瞬のうちに命を奪ってしまうのだった。
第一の刺客が天坊準。盲人の男で、白いコンタクトのようなものを入れて目を全部白目にしている顔つきが気味悪い。ダイス勝負に見せ場がある。第二の刺客が少年風のジュディ・オング(若い!)。「魅せられて」ヒット以前の彼女がどういう仕事をしていたのか、まったく知らないのだけれど、“日本映画データベース”で調べると本作品が映画初出演らしい。小林旭とは江戸川競艇場競艇の勝負をする。
第三の刺客が老婆で、小林旭とポーカー勝負を繰り広げる。およそ老婆と賭博は結びつかないため、これまた異様である。演じているのは原泉という役者さん。名前を聞いたことがあると思って、トイレに常置してある『ノーサイド』1994年10月号(特集「戦後が似合う映画女優」)をめくったらびっくり、何と中野重治夫人なのだという。戦前はプロレタリア演劇に挺身し、「戦後はクセの強い老女役・母親役で、得がたいバイ・プレイヤーとなる」(執筆丹野達弥氏、太字は原文傍点)とある。たしかにこの作品での彼女はクセが強いキャラクターである。
ジュディ・オング競艇場で勝負をし、勝利を収めたあと、パンドラ王国から差し向けられた追っ手から逃れるため、小林旭と彼を助けようとする同王国第三王妃(広瀬みさ)は競艇のボートにそれぞれ飛び乗って疾走してゆくのが何とも破天荒で笑えた。
ちなみに王国の王様は大泉滉。下着姿で外に放り出された彼を見て子供が「あ、アベベだ!」と叫ぶと、彼はアベベの真似をして国立競技場周辺を走ってゆくというギャグが混ぜられている。東京オリンピックから2年後の映画なのである。
黒い賭博師 悪魔の左手 [DVD]