中年男三人を翻弄する岡田茉莉子

秋日和」(1960年、松竹)
監督小津安二郎/原作里見紝原節子司葉子岡田茉莉子佐田啓二佐分利信中村伸郎/北竜二/沢村貞子桑野みゆき三宅邦子笠智衆三上真一郎渡辺文雄/高橋とよ/岩下志麻

古い日本映画好きを標榜していながら、これまで小津安二郎作品はその周辺を低徊するだけで、まだ「お早よう」1作しか観ていなかった。今回観た「秋日和」でようやく2作目なのである。
小津以外の日本映画をかなりの数観てきたうえで、あらためて小津映画を観てみると、その極端なローアングルと会話の際の構図(一人しか写さない―これは技法的に何と言うのだろう)など、かなり風変わりであることを感じないわけにはいかなかった。あれは独特である。
亡友の七回忌法要に集まった佐分利信中村伸郎・北竜二三人の中年男の会話が絶妙である。精進落としの席(清洲橋が説明的にちらりと映るから、中洲か浜町あたりにある料亭なのだろうか)で、未亡人の原節子と娘の司葉子が帰った直後、「綺麗だねえ」とか「いいねえ」と原節子の四十を越して出てきた色気に嘆息する姿(とくに佐分利)が、枯れているようで実は枯れていない中年男のいやらしさを見事に表現している。もっともいやらしいのだけれど、それが一般的な「エロ親父」になっていないのも見事。
なかなか結婚しようとしない司葉子を早く結婚させるため、先に母親の原節子を結婚させようとする中年男たちのもとに敢然と乗り込んで釘を刺す岡田茉莉子がこれまた素晴らしい。司葉子の同僚で、鮨屋の娘。馴染み客を装って自分の鮨屋に三人を連れていくあたりのシークエンスが愉快だ。
この映画を観ていたら、日本酒を呑みたくなってきてしまったのは、やはりそういうシーンの素晴らしさゆえだろうか。