芦川いづみのおでこ

「美しい暦」(1963年、日活)
監督森永健次郎/原作石坂洋次郎/脚色三木克巳吉永小百合浜田光夫芦川いづみ長門裕之丹阿弥谷津子内藤武敏奈良岡朋子/細川ちか子/織田政雄/藤村有弘/桂小金治

ひと言で言えば、他愛のない青春映画だった。松本にある女子校が舞台。松本が舞台の青春物と言えば「白線流し」を思い出す。高校の美術教師の長門裕之と化学教師の芦川いづみ、その高校の生徒である吉永小百合と、同じ町にある男子校の生徒浜田光夫、この二組のカップルが、いがみ合いながら実は互いに惹かれている…というパターン。
ストーリーは他愛なくとも、芦川いづみファンとしては、キリッとして凛々しい彼女を観るだけで満足。彼女は髪をひっつめておでこを丸出しにしているが、あの広いおでこが魅力的だ。たしか石原裕次郎と共演した「あした晴れるか」だったと思うが(→2005/11/13条)、裕次郎からおでこの広さをからかわれていた。
この映画でも、長門裕之からおでこの広さを揶揄されている。おでこは芦川いづみのチャーム・ポイントであり、あるいは日活もそれを承知で「芦川いづみのおでこ」を売り出そうとしていたのかもしれないし、彼女もそれを自覚していたのかもしれない。あるいは同世代の方からは、「芦川いづみのおでこ」は「有名なことだよ」と一蹴されてしまうかもしれない。
映画によって芦川いづみは揃えた短い前髪を垂らし、少女的容貌で登場するが、“大人の女”になるにつれ前髪をあげてくるような気がする。それまで前髪を垂らし額を隠していた女性が、ある日前髪をあげて額を露わにする。そこにエロティシズムを感じるのはわたしだけだろうか。そしてその額は広ければ広いほどよい。吉永小百合は逆に額が狭いから駄目だ。
この映画でほかに見所と言えば、女子校の教師が男子校生徒は不良だから付き合ってはいけないと生徒に訓辞したことに対し、浜田光夫らが女子校に乗り込んで校長(織田政雄)・教頭(藤村有弘)に抗議するシークエンスだろうか。男子校生徒を不良呼ばわりした女子校のロートル教師が細川ちか子で、彼女は受け持ちのクラス(吉永小百合がいる)の生徒たち一人一人に向かい、「本当に自分がそのように発言したか」を威圧的に(表面的には優しく)問い質して、反対の証言を引き出すというあたりのねちっこい芝居は、完全に彼女の一人舞台となっていた。
この「美しい暦」は、1951年原研吉監督によって制作された作品のリメイクである。ちょうどその原監督版が先日放映され、録画しておいた。キャストを見ると、長門裕之佐野周二芦川いづみ津島恵子吉永小百合桂木洋子浜田光夫高橋貞二となっている。見比べるのも面白いだろう。