期待せずに観ると…

「月蝕」(1956年、日活)
監督井上梅次/原作石原慎太郎/脚色井上梅次舛田利雄三橋達也月丘夢路金子信雄/安部徹/石原裕次郎岡田真澄/藤代鮎子/西村晃

ハードディスクに録画したまま3ヶ月放っておいた映画。出かける時間が来るまでの時間つぶしに観てみようと、軽い気持ちで観始めたら、けっこうこれが面白い。「石原裕次郎シアター」の枠で放映された作品であるが、裕次郎はまったくの脇役にすぎない(この年に「太陽の季節」でデビューし、本作が5本目)。ボクサーで、ノックアウトされ惨敗してしまう役。
主役の月丘夢路が殺害され、その現場検証から映画が始まるという設定がいい。妖艶で男を魅了するクラブ歌手の月丘と関係を持った男三人が現場に茫然とたたずみ、彼ら一人一人の回想シーンで月丘と彼らの(過去の)物語が展開してゆくという、ミステリであれば「倒叙物」とも言うべきストーリー。男三人とは、三橋達也金子信雄・安部徹。三橋はともかく、あと二人が金子信雄と安部徹というのは、素晴らしい取り合わせではないか。
月丘(きれい!)に魅せられたのは三橋・金子・安部の三人だけでない。石原裕次郎も彼女に惹かれ、さらにフィリピン人の男も彼女に結婚を迫る。このフィリピン人役が岡田真澄で、彼は月丘が三橋と結婚を決めたと知るや激昂して彼女を射殺してしまうのである。
三橋・金子・安部三人の回想が入り組んで、時間の前後関係がわからなくなってしまうのが難点と言えば難点か。月丘夢路は井上監督夫人である。ラピュタ阿佐ヶ谷で井上監督の「死の十字路」を観て面白かったので、以来井上梅次という名前がずっと気になっているのだが、この映画にも「死の十字路」と似たテイスト(「夜の都会」と言うべきか)がただよい、裕次郎が前面に出てくる直前の日活映画の面白さを堪能したのだった。