期待しすぎると…

野村芳太郎レトロスペクティヴ

「最後の切札」(1960年、松竹大船)
監督野村芳太郎/原作白崎秀雄/脚本橋本忍佐田啓二桑野みゆき宮口精二加藤嘉ジェリー藤尾柳永二郎殿山泰司小池朝雄西村晃小田切みき芳村真理/三井弘治/多々良純神山繁/上田吉二郎/佐藤慶

なにしろ「張込み」「砂の器」と同じ野村芳太郎橋本忍のコンビである。それに加え、三百人劇場のパンフレットには、次のような紹介文があって、いやおうにも期待が高まってしまうのだった。

新興宗教のスキャンダルをあさるユスリ屋を描くスリラーもの。二重生活を送る佐田の中年チンピラぶり、適材適所の名脇役たち、そして皮肉で鮮やかなラストなど見どころ満載。橋本忍のオリジナル脚本。
この作品に限らず、また今回の野村芳太郎特集に限らず、三百人劇場の作品紹介は簡潔にしてうまいなあと感心する。三百人劇場は閉鎖が決まり、映画特集は今回の野村芳太郎と続く田坂具隆特集でおしまいというのが残念きわまりない。
紹介文にあるとおり、佐田啓二宮口精二はユスリ屋である。どちらかというと佐田が主犯格で、でも二人はまったくのコンビというわけでもない。独自に行動をとり、危険を感じるや宮口は一歩引く姿勢を見せたりする。ゆすられる側の新興宗教「不滅教」の事務局長が加藤嘉で、これも冷戦沈着なワル。経理担当理事が殿山泰司(気弱)。彼らは衆院選挙に立候補している政治家柳永二郎(威厳あり)をバックアップしている。
表の生活は巣鴨にある洋品店の主人であるが、裏では凄味のあるユスリ屋という佐田啓二が絶品。彼は二枚目スターという印象であり、出演作どれを観ても同じような髪型とあの特徴のある二枚目顔で、「佐田啓二」と言うほかない存在感を持った役者さんである。この映画でもやっぱり「佐田啓二」なのだが、そうでありながらユスリ屋としての迫力も申し分なく、あらためて名優であると感じる。何の役をやっても「佐田啓二」という雰囲気は、息子の中井貴一にも受け継がれているのだろう。
紹介文で「皮肉で鮮やか」とあるラストだが、観ての率直な感想を言葉にすると、「あーあーあーあー、そんなふうになっちゃうわけ?」という、ちょっぴり脱力感のある幕切れだった。まあ「皮肉」であるわけだが、意外と言えば意外性があり、それはそれで嫌いではない。「ノッポ」という役名の小池朝雄と「チビ」という役名の西村晃が大活躍するのだった。
野村・橋本コンビの作品が必ずしもみな傑作にあらずというごく当たり前の結論を得たのだけれども、佐田の迫真の演技や、宮口・加藤らの「ワル」の雰囲気にしびれた分、損せずにすんだというべきか。