町内会で観たような映画

「東京の暴れん坊」(1960年、日活)
監督斎藤武市小林旭浅丘ルリ子近藤宏中原早苗/小川虎之助/小園蓉子小沢昭一森川信/藤村有弘/十朱久雄/三島雅夫
「でかんしょ風来坊」(1961年、日活)
監督斎藤武市小林旭浅丘ルリ子近藤宏殿山泰司北林谷栄小園蓉子森川信中原早苗宮城千賀子/藤村有弘
「夢がいっぱい暴れん坊」(1962年、日活)
監督松尾昭典小林旭浅丘ルリ子/杉山俊夫/中村是好桂小金治/小川虎之助/小園蓉子

パリに学問のため留学したところ、食べ物のおいしさに魅せられ、料理を勉強してシェフになって戻ってきた小林旭清水次郎)が主人公。父(森川信)は銀座の真ん中で洋食屋を営んでいたが、元首相一本槍鬼左衛門(!)の車が猫を避けようとして店に突っこみ、店を壊してしまう。
傲岸で頑固一徹な一本槍に対し店を弁償せよとつめよる次郎の気性を一本槍が気に入ってしまい、パトロンとなって店を再建、「レストラン・ジロー」として再開する。この小林旭が銀座の町の若大将となって、銀座の土地を狙うヤクザらの組織を蹴散らすというアクション・シリーズ。
ヒロイン浅丘ルリ子は銀座で唯一残った銭湯の娘で、小林旭に惚れているが、二人は反発しあってなかなか本心を伝えられないというお決まりのパターン。浅丘ルリ子のはじけるような可愛さがこのシリーズを観ようとした動機のひとつであった。
このシリーズは、上に掲げた三本のほか、「銀座の次郎長」「銀座の次郎長 天下の一大事」(いずれも井田探監督)の計五本があるが、未見。というのも、残り二本はヒロインが笹森礼子松原智恵子になってしまうから。もとより三本目の「夢がいっぱい暴れん坊」にいたると、その浅丘ルリ子も、一本目二本目ほどのみずみずしさがなく、精彩に欠けてしまう印象。三本目は監督も斎藤武市でなくなり、ストーリーも面白味に欠ける。結局面白いのは二本目までかもしれない。権利問題も関係するのかもしれないが、この二本のみがDVD化されているのもうなずけるのである。最初の二本は、「東京の暴れん坊」という同題の軽快な小林旭の歌声をバックにしているのもいい。
ストーリーとしては、二本目が面白い。一本槍元首相が一本目の小川虎之助から唐突に殿山泰司に変わり、元首相の若かりし頃の初恋相手として、銀座の土地を買い占めようという金持ちの北林谷栄が絡む。帝大生で学ランを着た殿山泰司と、カフェーの人気女給という役柄の北林谷栄の回想シーンが楽しい。これを観ると意外に北林谷栄の若作りに違和感がなく、むしろ老婆役こそが作っていたのではという印象を受ける。殿山泰司の一本槍はこの二本目のみで、三本目からふたたび小川虎之助に戻ってしまう。
浅丘ルリ子は二本目では雑誌編集部にアルバイトとして勤めており、金子信雄が編集長としてちょっとだけ登場する。中原早苗は一本目は銀座のバーのマダム役、二本目はズベ公役で登場する。どちらも違和感がないのだから、年齢不詳としかいいようがない。
ちなみに、三本目は、小林旭の父親役が森川信から中村是好に変わり、小林の弟分で銀座の寿司屋の息子杉山俊夫の親父役として桂小金治が加わり、この二人がストーリーを動かす。二本目の殿山泰司といい、三本目の中村是好といい、レギュラー出演者の配役をあえて変更し、特別出演のようなかたちでキャストに加えるのが、この時期のプログラム・ピクチャーの常識なのだろうか。
小林旭浅丘ルリ子のなかなか発展しない恋といい、かならず風呂場で小林旭が唄い、女湯に入っている人々もそれに聞き惚れるというお決まりのシーンといい、観ていて、こんな筋立ての映画を子供の頃に観たことがあるような気がしてきた。この映画そのものというわけではないだろうけれど、町内会のイベントで、近くの講堂(わたしの場合、近くにあった刑務所の講堂だった!)にみんなが集まり、そこで上映された映画がこんな味わいだったような、そんなノスタルジーをおぼえてしまう。わたしは60年代後半に生まれたが、こういう60年代映画の残り香を嗅ぐことのできた世代だったのだなあといまにして思う。
東京の暴れん坊 [DVD] でかんしょ風来坊 [DVD]