週末録り溜め映画三本立て
- 「弥次喜多道中双六」(1958年、東宝)
- 監督千葉泰樹/脚色笠原良三/徳川夢声/加東大介/小林桂樹/鶴田浩二/草笛光子/乙羽信子/淡路恵子/三木のり平/柳家金語楼/八千草薫/横山エンタツ/団玲子/有島一郎/清川虹子/東郷晴子/東野英治郎/笠智衆/堺駿二/三好栄子
加東大介と小林桂樹の弥次喜多コンビ。これは二作目のようで、物語は大井川の渡しから始まる。
この映画が面白いのは、メタフィクショナルなかたちをとっていることだろう。弥次喜多の生みの親十返舎一九が登場するのである。一九先生が弥次喜多のスポンサーになって東海道の旅をさせているという設定。その一九先生に扮するのが徳川夢声。夢声は弥次喜多それぞれの妻(乙羽信子・淡路恵子―どっちがどっちだったか忘れた)を引き連れ、弥次喜多を追いかけて旅をする。
道中に遭遇するお笑いエピソードをつなげるかたちで物語は進行する。三好栄子の口寄せ婆に脅かされたり、尊大な有島一郎の侍と同宿になったり、弥次さんが後家清川虹子の「男妾」になったり、喜多さんが蛤茶屋の娘団玲子のお尻を触って熱々の蛤汁をぶっかけられたり、道連れになったエンタツが頓死してしまい、その死体の弔いに四苦八苦させられたり。
厄落としをしようと寄り道してお伊勢参りをしようとしたら、一九本人と間違えられ、そのまま本人と偽って饗応を受けようとしたところ、本人がご登場でまんまとバレてしまったり、悪い奴らに追われていた娘(八千草薫)を助けて家まで送り届けたり。
ドジばかりの弥次喜多は、富山の薬売りである二枚目の鶴田浩二にいいところをすべて持っていかれる。
他の脇役としては、飲み屋の主人と給仕役で登場した三木のり平と柳家金語楼が笑いをさらった感じ。旅回りの女形が大坂で飲み屋を開いたという設定で、「おトラさん」という愛称の金語楼が爆笑物。啖呵を切るとき、髷をとったハゲ頭で相手を脅かすのが笑える。
桑名へ向かう船のなかで頓死したエンタツは死体になってからが笑える。白目を剥いた死に様が、まるで「らくだ」のように生者たちを右往左往させる。
こういう映画だから正月映画なのかなと思って調べると、十二月第一週の封切りらしかった。ということは正月映画ではないのかしらん。
吉川潮さんの評伝小説でしか知らなかった広沢虎造の渋い声での浪曲を満喫でき、しかもエノケンのあのテンポのいい歌声まで聞ける、愉快な気分になるロード・ムービーだった。ストーリーはあまり憶えていないが、エノケンは奉公していた商家を出て父親のもとに旅する奉公人で、侍の広沢虎造に追われていると勘違いして逃げ回る。父親役も、広沢虎造が探している侍も、エノケンが演じている。つまり一人三役のおいしい映画。
三益愛子という女優は、凛々しい顔つきが何となく哀愁を帯びている。
- 日活映画館@チャンネルNECO
宍戸錠の私立探偵が、香港人の小池朝雄率いる銃の密輸組織に立ち向かい、彼らを打ちのめすという映画。敗戦後から返還前までの米軍占領下にあった時期にそんな認識が形成されたのかわからぬが、香港・沖縄が密造銃の販売ルートとなっている。香港や沖縄が謎の組織の巣というミステリアスな土地になっているのである。
葉山良二はもともと中国人で、陸軍士官学校に学び国民政府の諜報をやっていたという男だったが、沖縄人と偽って日本に潜入、小池朝雄の組織の腕利きとして働いている。名前が宮城(ミヤグスク)というのがベタでおかしい。葉山は小池を裏切ったあげくに最後には殺されてしまう。あの俳優はサングラスがひとつのトレードマークなのだろう。自宅に帰ってもサングラスを外さない。以前観た「霧笛が俺を呼んでいる」でも同じだったはず。
金子信雄はこの映画では悪役ではなく、警視庁捜査一課長。でも胡散臭い。探偵事務所のメンバーもひと癖あって、初井言栄の関西弁を話すおばさんや、笹森礼子の新米秘書など、それぞれキャラクターが立っている。今回は笹森礼子をチェック。一見して芦川いづみ―浅丘ルリ子の系譜を引く日活女優であることがわかる。日活はこういう路線の女優が花形になるのか。とはいいながら私はこの笹森礼子という女優さんは初めて観たのだった。