針が逆にふれる

「霧笛が俺を呼んでいる」(1960年、日活)
監督山崎徳次郎/脚本熊井啓赤木圭一郎芦川いづみ/葉山良二/吉永小百合西村晃/二本柳寛

脇役脇役と騒いでいるうちに、とうとう鹿島茂さんまでが『甦る昭和脇役名画館』*1講談社)という本を出してしまった。“脇役離れ”をするわけでは決してないけれど、天の邪鬼のわたしとしては、針が逆にふれるようなことをしたくなる。
ということで観たのは、事故で夭折した往年の日活スター赤木圭一郎の主演作。赤木圭一郎の映画は初めて観た。女性に絶大な人気があったというから、もっと優男、おぼっちゃん系なのかと思っていたら、けっこうワイルドな雰囲気で、石原裕次郎のほうがずっと優男に見える。「間違いない」の長井秀和を精悍にさせたような顔立ちで、ちょっぴり猫背の姿勢が強い印象に残る。
この「霧笛が俺を呼んでいる」は1960年に公開された。関川夏央さんの『昭和が明るかった頃』*2(文春文庫)によれば、「日活の一九六〇年は赤木圭一郎の年」とあり、たしかに調べてみると月一本のペースで主演作が作られている。彼は当時20歳で、翌年2月に撮影所内で事故死してしまう。
故障により横浜停留を余儀なくされた船の船員(赤木)が、陸に上がると旧友が自殺したことを知る。しかしその事件には裏があり、その真相を突きとめようとするのが筋。旧友は実は麻薬の密売者で、替え玉で別の人間を自分と偽って殺害し、雲隠れしていたことがわかる。関川さんは前掲書で本作を「『第三の男』の焼き直し」としているが、もとを知らないわたしにとっては、なかなか面白いミステリ・タッチの映画だった。
その旧友が葉山良二。赤木と一緒に謎の解明にあたるのが旧友の元恋人の芦川いづみ。デビューまもない吉永小百合が葉山の妹役で出演している。芦川は相変わらず綺麗。可憐なお嬢様役、コメディエンヌ、汚れ役だけでなく、ここでは愁いを含んだ貴婦人という趣で、何でも演じられる名優なのではないかという気がしてきた。
赤木圭一郎のかっこよさにくらべ、敵役の葉山良二は何となく野暮ったい。ところがまたまた関川さんによれば、葉山は初期日活の文芸路線を支えた主役級の俳優だった。58年からアクション映画の脇役(つまりこの映画のような役)にまわるようになったという。恰幅がよすぎて、洗練されたアクション・スターの柄ではない。
この映画では、二本柳寛が悪役も似合う人であることがわかったのが新発見だった。成瀬巳喜男監督「めし」での、原節子の従兄役で良家のおぼっちゃんという雰囲気が染みついていたから。いや、それこそまたわたしの曲解で、柳永二郎や信欣三と同じく、悪役の俳優でこそ有名だったことがあとでわかった。
日活映画を観ると、松竹や東宝などの作品を観て確立された俳優に対する固定観念がガラガラと崩されるから面白い。…結局脇役の話になってしまっている。
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