殺される人が大事

  • 懐かし映画劇場@NHK-BS2(録画HDD)
「五瓣の椿」(1964年、松竹大船)
監督野村芳太郎/原作山本周五郎/脚本井手雅人/音楽芥川也寸志岩下志麻加藤嘉左幸子加藤剛田村高廣伊藤雄之助小沢昭一西村晃岡田英次市原悦子山岡久乃

原作はすでに今年の5月に読んだ(→5/4条)。
薬種屋の淫蕩な娘が妻子ある大店の男と不義を犯し、子供を孕んでしまう。どちらも外聞を憚る必要があったため、薬種屋の番頭が選ばれ、娘と結婚して店を継いだ。相変らず娘は淫蕩の質で男遊びをやめず、婿入りした主人は耐える毎日。
店の儲けとは別に、個人の蓄財として千両まで貯めたら妻(と店)を捨て、血のつながらない、でも自分を真の父親だと思い献身的に尽くしてくれる美しい娘と独立しようと懸命に働いたものの、志し半ばで病に倒れてしまう。
この父親の哀れさ無念さが映画を観る者の胸を打てばまず成功だろう。加藤嘉の父親は何しろ哀れである。同じ野村監督の「砂の器」を思い出してしまう。いっぽう、それと対照的に、母親や、彼女と交わりを結ぶ男たち(つまり殺される人々)のいやらしさが不快なほどに伝われば、完全に映画は成功したと言える。
淫蕩な母親に左幸子、最初に殺される常磐津の三味線方に田村高廣、好色なインチキ医師に伊藤雄之助、札差の道楽息子に小沢昭一、実の父親である大店の主人に岡田英次、母親の情事を取り持った芝居小屋の使い番に西村晃という配役は、実に見事であるというほかない。もうこうなると、主演の岩下志麻も彼女の罪を暴く与力加藤剛も、後景に退いてしまう。
何と言っても伊藤雄之助! あの気持ち悪いほどのエロ医師ぶりは出色の演技。また屋形船のなかで、下手に出たり恫喝したりしながら岩下志麻に関係を迫り、挙句の果てに熱湯を顔にぶちまけられて身悶えしながら川に突き落とされる西村晃も素晴らしい。やっぱりこの映画も脇役に尽きるのであった。
五瓣の椿 [DVD]