物真似で金子信雄を知る世代
チャンネルNECOでは現在、鈴木清順監督の日活時代の全作品を放映している。同局のサイトには、次のような作品紹介文が掲載されている。
大藪春彦の『人狩り』が原作で、ハードボイルドの体裁を取りつつも、マジックミラー越しのキャバレー、映画館の裏にある暴力団事務所など、特異なディテールに凝る様は清順ならでは。公開当時「清順美学の誕生!」と映画ファンをうならせた。辛口の批評家たちにも絶賛される清順作品のひとつ。なるほどそういうところが「清順美学」なのか。「マジックミラー越しのキャバレー」(マジックミラーの反対側には事務所がある)などは、たしかに面白い仕掛けだなあと思ったが。あとは冒頭と末尾のモノクロ映像に部分的に着色されているあたり、鈴木清順らしさなのかもしれない。
元刑事で、罪を得て服役の経験を持つ宍戸錠が、元同僚の心中事件の真相を暴くために暴力団組織に潜入するというアクション・ミステリー。
対立する組織が、小林昭二・金子信雄の組と、信欣三率いる組で、宍戸錠はその二重スパイのような立場で双方に与する。小林昭二は頭髪に油をべったりと付け、猫を抱いたキザな頭目。金子はその下の立場なのだが、金子信雄の口跡を聴いていると、どうしても片岡鶴太郎の物真似を思い出してしまう。
先日新文芸坐で観た「幕末太陽傳」にもその気はあったが(「銀座の沙漠」ではそれほどでもなし)、この「野獣の青春」はますます鶴太郎風(本末転倒な表現だが)で、この頃の金子信雄出演映画をよく観た人ならば、あの鶴太郎の物真似はとくにウケたのだろうなあと思わずにはおれない。
困ったことにわたしは、金子信雄と言えば、料理番組と鶴太郎の物真似でしか知らないから、映画を観てどうしても鶴太郎を思い出してしまうのだった。わたしより若い人ならば、鶴太郎の物真似すらリアルタイムで観ていないため、かえって先入観なく金子信雄の演技に吹き出さず観ることができるのかもしれない。
先日の「銀座の沙漠」では、柳永二郎の本領という点で新しい発見があったわけだが、今回は同じような意味で信欣三という人の脇役としてのキャラクターに思いが及んだ。信欣三は、「足摺岬」での、木村功や砂川啓介の同宿人で彼らに慕われながら、左翼系インテリゆえ特高につけ狙われる役柄の印象が強かったが、「野獣の青春」を観て、ひょっとしたらこの人もまた悪党役が本領だったのかもしれないと考えをあらためた。