哀れ三國・左・伴淳…

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飢餓海峡」(1964年、東映
監督内田吐夢/原作水上勉/脚色鈴木尚之三國連太郎伴淳三郎左幸子高倉健加藤嘉/三井弘次/沢村貞子

水上勉さんが亡くなったとき、代表作と言われている『飢餓海峡』を読みたい、それを原作として映画を観たいと思いつつ果たせないでいた。原作はその後重版された文庫版を購ったまま、映画は追悼上映の機会に見逃したままだったのである。
洞爺丸事件が背景にあるというのは、中井英夫の『虚無への供物』と通じる。発見された犠牲者の遺体がなぜか2体多いというところから謎が始まる。それを追いかけるのが伴淳さん。「砂の器」(テレビ版)の渡辺謙的執念を感じる。
遺体となった二人と一緒に北海道から青森に逃げてきたのが三國連太郎。彼らは北海道で強盗放火殺人を犯して逃走中だったのだ。三國が這々の体で青森に渡ったあと、親切にしてあげるのが娼婦の左幸子
伴淳は事件のこと(犯人と目星をつけた三國のこと)を左がよく知っていると踏んで、左が逃げてきた東京まで追いかけるが、あと一歩のところで逃してしまう。敗戦直後の東京においては、女を捜すのは「海のなかからメダカをすくう」のと同じなのだ。
そこから10年が経過する。伴淳はこの事件に深入りしすぎて刑事を辞めさせられ、少年刑務所の看守となっている。左は三國のことを忘れられず、亀戸で娼婦としてこつこつとお金を貯めている。三國は何と舞鶴で実業家となっている。
この三人の10年後の姿に、それぞれが過ごしてきた時間のずしりとした重みが感ぜられるからこそ、傑作と評されるのだろうし、水上さんの意図を汲んでいるということになるのだろう。直感的に映画は原作に忠実であるような気がするが、やはり原作を読まねばという気持ちになる。
飢餓海峡 [DVD]