観たような観てないような

「不連続殺人事件」(1977年、ATG)
監督曽根中生/原作坂口安吾/脚本大和屋竺田中陽造曽根中生荒井晴彦/蹉川哲朗/夏純子/田村高廣/水原明泉/福原ひとみ/金田龍之介/泉じゅん/桜井浩子内田裕也内田良平/小坂一也/殿山泰司初井言栄伊佐山ひろ子石浜朗/楠侑子/神田隆/松橋登

横溝正史ブームで推理小説にはまった中学生のわたしは、次にミステリ・ベストテンにランクされる作品に手を伸ばした。中学生をして手にすることを躊躇させたのは、米倉斉加年さんの絵がカバーにあしらわれた夢野久作ドグラ・マグラ』と、衣服を破られ片方の乳房があらわになった女性が白衣を着た男にメスを突きつけられ、恐怖におののく表情を見せている映画のスチール写真がカバーとなった坂口安吾『不連続殺人事件』だった。奇しくもいずれも角川文庫だ。
ドグラ・マグラ』は結局大学生の頃東京創元社の『日本探偵小説全集』版で読んだ。いっぽうの『不連続殺人事件』は中学生の頃読んだものの、ミステリの傑作と言われる理由がよくわからなかった。このあたりの経緯は近年読み返したときの感想にも書いている(→2003/6/4条)。
あのスチール写真はATGで映画化された作品のものだ。いつぞや観たことがあるような気がする。この映画を観て、安吾がこの作品で仕掛けたトリックの意味がようやく呑み込めたような記憶があるのだ。しかも再読したとき、画家の土居ピカ一が、映画で演じた内田裕也の姿となってイメージされたのだ。
今回日本映画専門チャンネルで放映されたのを観て、ますますはっきりしなくなった。観たような気もするし、でもやっぱり観ていないような気もする。観ていないにもかかわらず観たような気がするということであれば、映画は原作にかなり忠実であるということになるだろう。実際あの奇怪千万な人間関係が見事に表現されていると思う。
カバーになった写真の場面は、映画を観るとあのとおりではないが、松橋登の海老原医師が宮下順子(?)を襲うところだが、映画のなかではさっぱり重要なシーンではない。どう見ても目を引くことを目的とした選択である。こんなことで長く文庫本のカバーに胸をさらけ出した写真を載せられつづけた女性が気の毒である。