時代劇やっと2本目

  • 『カーテンコール』公開記念 佐々部清監督の〈おもひで映画館〉@衛星劇場(録画HDD)
切腹」(1962年、松竹)
監督小林正樹/原作滝口康彦/脚本橋本忍仲代達矢三國連太郎石浜朗岩下志麻/稲葉義男/丹波哲郎中谷一郎三島雅夫

少しずつ少しずつ、「時代劇映画道」の軌道に乗りつつある。もとより村井淳志『脚本家・橋本忍の世界』*1集英社新書、→8/18条)を読み心動かされていた橋本忍脚本のこの映画だったが、ちょうどいい機会にケーブルテレビで放映してくれたので、観る機会を得た。
川本三郎さんの『時代劇ここにあり』*2平凡社)に取り上げられている時代劇映画105本のうち、観ているのは「七人の侍」ただ1本。それにようやく「切腹」を加えることができた。
江戸時代初期、幕府の政策による外様大名の改易が続き、巷には浪人があふれた。生活に窮した挙句、大名屋敷を訪れ玄関先を借りて切腹させてくれと申し出る者があった。この者が運よくその大名家に召し抱えられたことで、我も我もと真似する浪人が出てくる。
困り果てた諸大名側は、お金を浪人に与えて引きあげてもらう。すると今度はそのお金目当てに、たかり同然に切腹すると言い寄る者が出てくる始末。
芸州広島の旧福島家中千々岩求女(石浜朗)もその一人。桜田門にある井伊家上屋敷を訪れ、切腹させてほしいと申し出る。井伊家江戸家老三國連太郎はあに図らんやこれを認め、庭先を提供する。石浜朗は本当に切腹する羽目になって焦り、一両日の猶予を申し出るが許されない。実は持っている刀は窮乏の果て竹光だった。真剣を拝借することも叶わず、竹光を腹に幾度も突き刺し、死にきれずに最後は舌を噛みきって果てる。
この石浜の無惨な最後は、回想シーンとして語られる。石浜の岳父仲代達矢が同様に井伊家に切腹を申し出、応対した三國が、同じ福島家中の人間にかつてこういう者がいたと振りかえるのが、この石浜の話なのだ。
石浜の死に様はみじめとしか言いようのない。しかし三國と仲代の息づまる対決の過程で明らかになる事情を知ると、死に様が哀切きわまる色合いに変じてゆく。低音で静かに淡々と事情を物語る仲代の魅力もさることながら、切腹の押し売りにくる浪人どもを鬱陶しげにあしらう三國連太郎の気だるい雰囲気がたまらない。
前掲村井さんの本によれば、もともと江戸期の文献に記された記事をもとに、滝口康彦が物語に仕立てたということらしい。福島家の浪人が井伊家で大暴れするというのもなかなかマニアックな興味をかきたてる。というのも、それぞれの藩祖福島正則井伊直政は、関ヶ原の戦いのおり同じ東軍に属し、先陣争いをした関係にあるからだ。たしか先陣は福島が仰せつかっていたのだが、井伊直政が補佐していた家康四男松平家吉が血気にはやり戦いの火蓋を切ってしまったという話ではなかったろうか。
緊張感を途切れさせることのない130分。それでなくとも映画館に入ると息苦しくなるのに、これをスクリーンで観たら窒息してしまいかねない。スクリーンで観るのは、先日の「親馬鹿大将」のようなほんわかした喜劇がいいようだ。
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