戦中派の感慨?

「肉弾」(1968年、「肉弾」をつくる会・ATG)
監督岡本喜八寺田農大谷直子伊藤雄之助小沢昭一田中邦衛笠智衆中谷一郎高橋悦史天本英世北林谷栄春川ますみ菅井きん仲代達矢(ナレーター)

最近、小林信彦さんが岡本喜八監督の映画を評した文章に目を通した。たしかそこでは、「ああ爆弾」「殺人狂時代」を高く評価し、〈戦中派の感慨〉をモチーフにしだした頃からつまらなくなったと書かれてあったように記憶する。その画期となる作品が「江分利満氏の優雅な生活」だとあって、ああやはり小林さんは山口瞳さんが好きではないのだなと、両者ともに好きなわたしは複雑な気分になったのである。
いまこの典拠を探したけれど見あたらない。山形で購ったコラム集『地獄の観光船』*1集英社文庫)にも収められていないようだ。香澄堂書店で立ち読みした著書だったかしらん。
もっとも『地獄の観光船』では、同じ岡本監督の「ダイナマイトどんどん」を取り上げ、「またしても〈戦中派の感慨〉である。レイテ沖がどうのこうのいっても、私を含めた観客にはカンケイないし、シラける一方である」(133頁)と痛烈に批評する。
9月から日本映画専門チャンネル豊田四郎監督特集が始まる。成瀬巳喜男監督同様、生誕100年を記念してのものである。またせっせとハードディスクに録りため、DVDに保存するという季節がやってくる。ハードディスクの空きを確保するため、これまで録画しながらなかなか観る機会を得なかった映画を観ることにした。
そのひとつが岡本監督の「肉弾」だ。終戦直前戦車突撃隊に選ばれた見習い士官(寺田農)を主人公とする、岡本監督の代表作のひとつに数えられている作品だ。「独立愚連隊」のように、派手なドンパチがある映画かと思っていたらそれほどでなく、意外だった。
仲代達矢のナレーションの雰囲気はまさしく「江分利満氏の優雅な生活」に通じるものがあり、小林さん言うところの〈戦中派の感慨〉が吐露された部分である。ただ映画全体で言えば、脇役陣が強烈な印象を残す。
両腕をなくした古本屋の親爺である笠智衆、どしゃ降りのなか女郎屋から傘をさして帰る寺田を咎める軍曹に小沢昭一、突撃船に潜む寺田に敗戦を伝える「おわい船」の船長に伊藤雄之助中谷一郎高橋悦史も一場面だけの出演なのだが、さすがに鋭い。岡本監督がたとえこの映画に戦争の悲惨さや無情さを込めたとしても、彼ら脇役陣の演技や、若い大谷直子の鮮烈なヌードに圧倒され、後景に退いてしまっているのだった。