装丁浪漫

装丁浪漫展チラシ

ちいさな子供を持つ親にとって地獄の季節がやってきた。昨日から首都圏のJR各駅を対象にした「ポケモン・スタンプラリー2005」が始まったのである。去年全駅制覇した*1長男は今年も意欲満々。昨日は同じ幼稚園の女の子とそのお母さんと一緒に妻が付き合い、今日はわたしが同行する。
電車を降りると、同じような親子連れが雲霞のごとく湧き出るといった印象(失礼)。お互いご苦労さまというアイコンタクト。昨日今日と、やけに親子連れが多いなあと感じた方もいるかもしれない。スタンプラリーなのであります。
もとより今日が最終日のさいたま文学館企画展「装丁浪漫」に行こうと思っていたから、足を伸ばしにくい高崎線埼京線を請け負った。高崎線でもっとも遠いスタンプ設置駅が熊谷。ついで上尾。さいたま文学館のある桶川はその中間にある。熊谷は上野から各駅停車で一時間強かかる。
いまから6年ほど前、北関東にある某女子大に非常勤講師として週一回一年間通っていたことがあり、高崎線を利用していた。朝早く出て2コマの授業をこなし帰るため、行きも帰りも車中で眠っていることが多かったせいか、久しぶりに高崎線に乗り、「こんな車窓風景だったか」と意外に感じた。もっとも記憶にある風景も確かにあって、ある種の懐かしさもおぼえる。
なぜさいたま文学館が桶川にあるのかわからないが、建物は円形の超モダンな明るいデザインで、桶川の市民会館が併設されている。初めて知ったことだが、同館には、古書店主で永井荷風関係資料の蒐集家でもある山田朝一氏が集めた荷風関係資料コレクションが所蔵されている。今回の企画展にも同コレクションから荷風本が出展されていたが、橋口五葉装丁本が美しい。
その他小村雪岱岸田劉生・杉浦非水・恩地孝四郎の装丁本をメインに、豆本作家植松長一郎氏作品や大貫伸樹氏所蔵本などが展示されている。大貫さんの提供本のなかでは、経木のような竹皮が表紙になっている本や、板表紙本、また、佐野繁次郎による横光利一『時計』のアルミ板表紙本など、めずらしい表紙の本が目をひいた。
常設展示では、埼玉県にゆかりの文学者の作品が展示されている。川越で育った澁澤龍彦や、「ラブミー農場」の深沢七郎らはともかく、安藤鶴夫野口冨士男の名前があったのには驚いた。
野口冨士男は、年譜を見ると1945(昭和20)年10月から1年半ほど、越谷にある奥さんの実家に寄寓していたことがある(講談社文芸文庫『わが荷風』所収年譜)。安藤鶴夫も、いま年譜を確認できないが疎開がらみだったような気がする。常設展示には、安藤鶴夫の書斎にあった黒板なんていうものが並んでいた。まあ、埼玉は東京の隣なのだし、関わりのある文学者が数え切れないほどいても不思議ではない。
展示を見ていたら、VIP待遇の人が見学に来ていたらしく、説明をしていた学芸員とおぼしき方の口から、「来年獅子文六の…」という言葉が出ていたことを聞き逃さなかった。空耳でなかったら、いずれ獅子文六展があるのだろうか。埼玉と獅子文六はいかなる関係があるのか。
せっかくめったに乗らない埼京線に乗るのだからと、長男の許しを得てブックオフ浮間舟渡駅前店に立ち寄る。でも収穫はなし。熊谷・上尾・大宮・武蔵浦和戸田公園・浮間舟渡・北赤羽・赤羽各駅のスタンプを獲得し、疲れ果てて帰宅。赤羽は昨年も今年も人気のポケモンのスタンプが配置されている。鉄道各線の結節点になっていることはわかるが、赤羽に来させることに、JR東日本はどんな思惑を持っているのだろう。

*1:もっともほとんど妻が同行したのだが。