微熱で映画2本

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阿弥陀堂だより」(2002年、東宝
監督・脚本小泉堯史/原作南木佳士寺尾聰樋口可南子北林谷栄小西真奈美田村高廣香川京子吉岡秀隆/井川比佐志

微熱の状態がつづき、なかなか下がりきらないので、外出をひかえた。去年入院したときと似たような症状なので、ちょっと気になる。気分がすぐれず、本を読んでも頭に入らないので、映画を観ることにした。ちょうど「阿弥陀堂だより」のレンタル期限が迫っていたのだった。
この作品を借りてきたのは、一に北林谷栄さんを観たいから。今月初め、「大誘拐」での大地主の老婆役、そして「婚期」での下卑た老婢役をつづけて観たからか、北林谷栄という老優が気になった。何と二つの映画の間には30年という開きがあるのだ。「婚期」と同様の老婢役で思い出したのが、獅子文六原作の「青春怪談」。ここでも重要な役ではないが、山村聰・北原美枝父娘の家で働く老婢を演じて印象的だった。
阿弥陀堂だより」は「大誘拐」からさらに10年が経っている。都会の病院の第一線で働く女医(樋口)がストレス性のパニック障害に悩み、小説家の夫(寺尾)の郷里である長野県の鄙びた山村に移り住み、そこの療養所で働くことになった。北林の役は村の阿弥陀堂の堂守をする90歳を過ぎた老女うめ。
うめのもとには、彼女の昔語りを聞きに、若い頃病気で声を失った少女(小西真奈美)が訪れ、うめの聞き書きを村の広報誌に「阿弥陀堂だより」として文章化している。
郷里には、末期ガンで死期を悟り、端然と日々を送っている恩師(田村高廣)がいる。彼を支える老妻に香川京子。先日「おかあさん」での可愛い姿を観て、ますます香川ファンになっただけに、感慨深い。
長野県(飯山市)の山里の美しい四季の風景をバックに、人間の生と死のドラマが静かに展開してゆく。ただ泣けたり、ただ笑ったり、それだけがいい映画ではないことは承知しているつもりだが、今回の「阿弥陀堂だより」にも泣かされながら「いい映画だなあ」としみじみ感じた。
死の床についた田村と、それを見守る香川。そんな老夫婦の会話に涙。人は歳を重ねればこんな境地で死を受け入れ、看取ることができるのだろうか。

――もう、これでいい。じゃあ、先に行くから。
――はい。長くは待たせませんから。
北林さんは相変わらす存在感たっぷり。DVDに特典映像として付いているメイキングや製作発表の記者会見を観て、ふたたび涙が出る。北林さんと寺尾聰さんの父宇野重吉は劇団の同期で、その息子の「アキラさん」と共演がしたくて、この映画が自分にとって最後の出演作になるだろうという覚悟で引き受けたと涙ながらに挨拶する姿に感動しないはずがない。

「青葉繁れる」(1974年、東宝
監督岡本喜八/原作井上ひさし丹波義隆草刈正雄秋吉久美子/十朱幸代/ハナ肇

仙台一高時代を綴った井上ひさしさんの原作は未読。仙台にいるときに読もうと思いつつ果たせなかった。いま映画を観て、今度古本屋で文春文庫版を見つけたら買っておこうと心に決める。
この映画が気になったきっかけは、その井上ひさしさんの『巷談辞典』*1(文春文庫)だった。といっても井上さんの文章ではなく、「公衆電話」という一篇に添えられている山藤章二さんのイラストのキャプションなのである。

仙台一高といえば、井上氏原作の東宝映画「青葉繁れる」は、実に面白かった。原作者の青春時代を演じた丹波義隆(哲郎の息子)が何しろよく似ていて、ズッコケ具合、スケベ具合、マジメ具合、それにデ具合までもうそっくり! お見のがしの方は二番館、三番館で捕まえることをおすすめします!(87頁)
たしかに丹波義隆は井上さんそっくりで、青春映画らしい青臭さに満ち、仙台一高(映画では東北一高)を舞台に、青葉城址や広瀬川など、仙台でロケされている点貴重なのだが、山藤さんが激賞するほどの面白さを感じたかといえば、多少懐疑的。