追悼 三橋達也

  • 録画DVD
「青春怪談」(1955年、日活)
市川崑監督/獅子文六原作/山村聰轟夕起子三橋達也北原三枝芦川いづみ/山根寿子/瑳峨三智子

以前WOWWOWで放映されたときやっきさんに録画をお願いして、そのまますっかり忘れていたのだけれど、先日お会いしたときにいただいて思い出した。その日の朝三橋さんの訃報を知ったのだから、奇妙な偶然である。
この作品は以前フィルムセンターで見てその面白さに感激し、いまでも獅子文六原作映画のなかでは一番と思っているものだったから、DVDに焼いてもらって手元にずっと置いておくことができる幸せを噛みしめている。今回三橋さんの追悼の意味を込めて再見した。
安易に名作という言葉を使うのもいかがかと思うし、映画通の方が言う名作と自分の価値基準での名作の意味合いも異なるのだろうけれど、最初から最後まで飽きさせず、配役も絶妙、観終えたあとハッピーな気分になるのだから、これを名作と言わずして何と言おうか。
山村聰轟夕起子の熟年カップルの名演。多磨墓地で、中年の恋をしてしまった轟夕起子を哀れそうに眺める山村聰の顔が何とも笑えるし、向島百花園での轟夕起子のかわいいとしか言いようがない仕草と、一世一代の告白、彼女が百花園の浅い池に入って死のうとする滑稽味と、助けるために彼女を抱きかかえて山村聰が最後につぶやく「重い」という捨てぜりふのおかしさ。
美男美女カップ三橋達也北原三枝のドライな交際。合理主義で淡々と物事を進めるのだけれど、熟女から常にねらい打ちされている美男三橋のダンディぶり。ボーイッシュで伝法な北原の言葉づかい。さらに、キュートな芦川いづみや、目元が凛々しい山根寿子と瑳峨三智子の美しさ。宇野重吉の卑屈な病院事務長と滝沢修のキザな芸術家、「壁に耳あり」の奥村家女中北林谷榮まで、脇役まで含めてもうすべてが素晴らしい。
背景に映る昭和30年の風景。鵠沼の海岸、銀座(?)の町並み、新橋駅構内、神宮外苑から信濃町駅にかけてのあたり、日比谷公会堂、都電が行き交う浅草吾妻橋辺と向こう岸に見える昔のアサヒビール工場、向島百花園などなど。
三橋達也轟夕起子芦川いづみを見ていたら、この三人がやはり出演している名作「洲崎パラダイス 赤信号」を観たくなってしまった。