古本屋の登場する映画

「永すぎた春」(1957年、大映
田中重雄監督/三島由紀夫原作/若尾文子川口浩船越英二沢村貞子

本郷T大学正門前にある古本屋の娘(若尾文子)といいところのボンボン(川口浩)の婚約から結婚までの「永すぎた」期間の恋愛模様を描いた映画。三島の原作を読んで以来映画が気になっていた。観るとたしかに正門前にあるという設定。店の奥から本郷通りを見るシーンでは、その向うにT大正門の守衛所の建物(現存)が見える。この位置にはたしかにいまも古本屋があるが、まあ店舗自体はセットなのだろう。
川口浩はT大法科の学生で、キャンパス内で二人は逢瀬を楽しむ。たしかに見たことがある建物で、ロケ地を知る嬉しさがあるいっぽう、記憶にない建物(というか建物の位置関係)があって、これは本当に本郷でロケされたものなのか、この映画以来キャンパス内の建物配置が変わったのか、そんなことばかり考えていた。ロケ地といえば、若尾・川口が二人で歩く背後に、本郷から西片に出る「空橋」(樋口一葉も通った。橋自体は著名な建築家武田五一設計)が見えるのも楽しい。
若尾文子の顔立ちは結構好きだったのだが、若い頃の(あるいはこの映画の)彼女はとびきり美しいというわけではない。むしろ小悪魔的。川口浩は探検隊長としてしか知らないが、美形で母性本能をくすぐるタイプか。脇役の沢村貞子(川口の母親役)と船越英二(若尾の兄役)が好演。沢村貞子は最初こそ憎まれ役だったが、いつの間にかいい人になっているのがおかしい。
何度も登場するシャンソン喫茶のシーンで唄うのは美輪明宏