ドキドキ銀座

色川武大さんの『なつかしい芸人たち』は雑誌『銀座百点』連載。2000/10/15条でも書いたが、『銀座百点』連載のエッセイは、広い意味で作者と東京とのかかわりについて執筆されたものだから、注目することとなったのは自然の成り行きであった。
昨年の暮れ、神保町の背骨たる靖国通りからだいぶ離れた裏通りをぶらぶらと歩いていたら、偶然に古本屋を発見した。名前を海坂書房という。勘のいい方ならすでにお気づきだろう。「娯楽時代小説専門」を掲げた店なのである。もちろん名前は藤沢周平の小説から採ったに違いない。ここまでジャンルを限定した古書店が成立するのだから、やっぱり神保町は懐が深いというか、すごい。感動すらおぼえる。
時間もお金もなかったのだが、ジャンルと店名に惹かれて、ついふらふらと中に入ってしまった。時代物歴史物ファンにも好まれそうな歴史蘊蓄エッセイ・評論(例えば稲垣史生系)、芸能関係(落語・歌舞伎など)の本も置いてある。
入ってすぐのところにあったのが、江戸東京関係の本。古書店には珍しく、新刊書店店頭のフェアよろしく、平台に並べられていたのだ。
そのなかで一冊の本が私の目に止まった。和田誠さんの『銀座界隈ドキドキの日々』(文春文庫)である。
見た瞬間、これは『銀座百点』連載のものだという直感がして手にとった。あとがきを見ると、直感は的外れではなかった。取り立ててメモなどをしていなかったのだが、和田さんも『銀座百点』に連載していたことを銀座百点のホームページで見て、頭の片隅にその記憶が残っていたのだろう。
丸谷さんの文庫本のほとんどの装幀を手がけていることもあって、最近和田誠の名前を目にする機会が多く、それも目に止まったひとつの理由でもあろう。見ると本書は講談社エッセイ賞受賞作らしい。また読むのが楽しみな本が増えた。
本書が他の文庫本と変わっている点を一つ。解説(井上ひさし氏)が、元版の「あとがき」と著者による「文庫版のためのあとがき」の間に挟まってあること。
解説が巻末にないのも珍しいのではあるまいか。