岸恵子という母親像

「風花」(1959年、松竹大船)
監督・脚本木下惠介岸恵子久我美子有馬稲子川津祐介笠智衆東山千栄子/永田靖/細川俊夫井川邦子和泉雅子/川頭顕一郎

回想シーンと現在シーンが切れ目なくつながっているという野心的なつくり。さすが木下監督。小説でいえば筒井康隆さんの実験作風なのだが、実は映画ではこんなに早く木下監督がものにしていた。
田舎の没落しつつある大地主の家で、長男と心中しながら自分だけ助かり、彼の子供を宿した奉公人という岸恵子の役柄。跡継ぎを殺した人間同様に蔑まれながら、残された息子ともども、家の子供という扱いでなく、奉公人の親子という扱いに甘んじてその家に暮らしつづける屈辱。
このとき岸恵子はまだ23歳なのである。息子の川津祐介と一緒に、彼が密かに憧れていた従姉のお嬢様久我美子(当時24歳)の婚礼を見届ける母親像は、北公次とひそやかに暮らす母親を演じた「悪魔の手毬唄」を彷彿とさせるのだから驚く。
岸・久我とともに「にんじんくらぶ」を立ち上げた盟友有馬稲子(23歳)も久我の友人役で出演。可憐な女学生から一転久我にたかりにくる、世の中の汚さを知り尽くしたような女性を演じ分けるところも素晴らしい。
斜陽の大地主の家のプライドを保ち、守り続けようとする東山千栄子の女の執念も抜群。