小林桂樹自選ベスト

「裸の大将」(1958年、東宝
監督堀川弘通/脚本水木洋子小林桂樹三益愛子市村俊幸/高堂国典/森川信沢村貞子/団令子/有島一郎一の宮あつ子/佐田豊堺左千夫/三好栄子/青山京子/横山道代/中田康子/柳谷寛/加東大介東郷晴子東野英治郎/南道郎/上田吉二郎/坂本武/飯田蝶子左卜全長岡輝子田中春男藤木悠/沢村いき雄/柳家金語楼/藤村有弘/三木のり平クレージー・キャッツ

衛星劇場小林桂樹特集のインタビューの最後で、ベスト作品はと問われた小林さんは、長考のすえ同年代の誼でという理由で「裸の大将」を挙げた。山下清と小林さんはほぼ同年齢だという。きっとほかにあげたい作品は山ほどあったのだろうけれど、こちらを立てればあちらが立たない、苦悩の果て、差し障りがあまりない、これなら誰からも文句を言われないだろうというような「裸の大将」を選んだのではと心中を忖度する。
むろん「裸の大将」は、ベストにあがってもまったくおかしくない作品なのに違いない。わたしは(というより、世間のほとんどの人は)裸の大将と言えば芦屋雁之助さんの姿を思い浮かべるだろうが、上の世代の人たちは、きっと裸の大将=小林桂樹なのだろう。スクリーン、もしくはテレビにおける山下清のキャラクターを固めたのは、小林さんの力があったに違いない。
映画は、小さなエピソードがつながったオムニバス風の内容で、東宝の有名どころがそれぞれの挿話で印象深い役として登場する。
妻が入っているテニスサークルの仲間に、新聞記者だった父親がかつて山下清の世話をしたことがある人がいて、家には山下作品もあるのだという話。そしてその方が映画「裸の大将」にも登場し、植木等が演じているという話を聞いたら、聞き過ごしていられなくなった。小林さんがベストにあげた作品という印象もあるうち、さっそく観ることにする。
たしかに配役にクレージーキャッツが出てくる。どこで植木等が出てくるのかと思いきや、ラストに近い挿話がそれだった。しかも植木さんは「植木等」あるいはのちの「無責任男」というよりは「クレージーキャッツの一人」という重み。いちおう新聞記者のようであったが、たんに小林桂樹を追い回す役どころで、世話をするといったことはない。
目まぐるしく挿話が流れてゆく作品ゆえ、そうなるのも致し方あるまい。