美女と悪役

SPパラダイス!!

「トップ屋取材帖 悪魔のためいき」(1960年、日活)
監督井田探/原作島田一男/脚本星川清司/水島道太郎/筑波久子/二本柳寛/高品格/葵真木子/中村万寿子
「トップ屋取材帖 影のない妖婦」(1960年、日活)
監督井田探/原作島田一男/脚本星川清司/水島道太郎/筑波久子/二本柳寛/高品格/中村万寿子/待田京介

水島道太郎が「トップ屋」(週刊誌のトップ記事を書くフリーライター)を演じるシリーズの第3作、第4作目なのだそうだ。
水島道太郎という俳優さんは初めて観た、と思ったら、これまで観た日活映画にも出演していたらしい。渡辺武信『日活アクションの華麗な世界』*1(未來社)によれば、裕次郎登場以前の日活初期アクションを河津清三郎らとともに支えた人だという。「この頃は実に都会的な雰囲気をもっていた」とある。
これは何と比較されているかと言えば、後年の脇役出演作品とであり、そこでは「悪玉のボスと善玉の脇役」が主たる役柄だったという。たしかに悪相ではある。
とはいえ水島道太郎は、顔に刻まれたシワの雰囲気が実に渋くていいのだ。風貌は実に渋くて、たくさんの危険な経験を乗りきってきたベテラントップ屋という雰囲気満点なのだが、それにしては口跡が軽い、いや伝法で意外なのだった。
この二作とも、簡単に言えば敵役が二本柳寛であり、最初はその子分的存在で悪の組織にいた美女筑波久子が、次第に水島に惹かれて改心し、二本柳が身を滅ぼすというパターン。もちろん高品格は悪玉側の手下で存在感をアピールする。出演者がほとんど変わらないが配役は違う。でも役柄は同じ。これぞプログラム・ピクチャーの典型と言うべきなのだろう。
「悪魔のためいき」のラストで、二本柳寛が火だるまになりながら崖から転げ落ちてゆく敗れ去り方をしたので、当然プログラム・ピクチャーの楽しみ方としては、次の「影のない妖婦」ではどんな死に方をするのかと期待がふくらむ。
そうしたら、あれあれ。水島と格闘中に警察が踏み込んであっさり手を挙げて捕まってしまったのだ。へなへなと腰砕けになる。水島も悪相だが、悪役としての二本柳寛さんもかなり気になる存在。小津作品や成瀬作品では良家のお坊っちゃんを演じた役者さんが、なぜまた日活では悪役なのか。この人の「脇役人生」を知りたい!
二作に共通するヒロインが筑波久子。どう見てもB級感ただよう女優さんなのだが、たまにある角度から見るとハッとする美しさを見せるあたりが侮れない。
例の座右雑誌『ノーサイド』1994年10月号(特集「戦後が似合う映画女優」)をめくってみると、慶應義塾大学一年生のとき日活ニューフェイスとしてデビュー、女子大生グラマーと騒がれた人なのだそうな。
たしかにグラマラスで、お腹のあたりのお肉がちょっとだぶついているあたりが、ふつうよりはちょっと綺麗で、でも実際すぐ近くを探せばいそう…という現実感をただよわせる。茨城県出身というから、芸名はそれにちなんでいるのか。だとしたらあまりに安易である。
水島道太郎の渋いけど軽いという都会性、二本柳寛の上品な悪、筑波久子のB級感、水島道太郎の事務所があるとおぼしい新宿の昭和30年代風景と合わせて、それなりに楽しめた映画であった。