寡婦は強し

「乾杯!見合結婚」(1958年、東京映画・東宝
監督瑞穂春海/原作摂津茂和/脚本長瀬喜伴香川京子仲代達矢/若山セツ子/坪内美詠子平幹二朗中谷一郎都家かつ江岩崎加根子
「下町(ダウンタウン)」(1957年、東宝)※二度目
監督千葉泰樹/原作林芙美子/脚本笠原良三・吉田精弥/山田五十鈴三船敏郎/亀谷雅敬/淡路恵子多々良純/村田知英子/田中春男

「乾杯!見合結婚」は、見合いをして結婚式を翌日に控えた男女(香川京子仲代達矢)が、恋愛の不完全燃焼を悔やみ、それぞれほのかな恋心を持っていた相手のもとを訪ねるものの、結局それは夢に終わり、粛々と結婚式を迎えるという筋。
仲代達矢が自家用車で甲府に向かい訪ねるのが、馴染みのバーのホステスをしていた(仲代に惚れていたという)若山セツ子。しかし彼女に家に着いてみると、彼女は出産で苦しんでいるときだった。いっぽう香川は衝動的に飛行機に乗って(たぶん当時はよほどお金がないと飛行機日帰り往復できまい)大阪に向かい、転勤してしまった元同僚(あとで平幹二朗だと知る)の寮を訪ねるが、赴任地で見合結婚してしまっていた。
まあ筋はともかく、この映画は香川京子さんのはじけるような可愛さを楽しめばそれでいい。わたしもそれをこの映画に期待していたのだから。
「下町(ダウンタウン)」は一昨年三百人劇場で観て以来(→2005/5/27条)二度目。
やはりこの映画は寡婦山田五十鈴と好青年三船敏郎が素晴らしい。シベリアに抑留された夫を待ちながら、東京に出て幼なじみ(村田知英子)の家に間借りし、静岡茶の行商をしながら息子と二人侘びしい生活を続ける風情。息子はときおり「今日も暮れゆく異国の丘に/友よ辛かろ切なかろ/我慢だ待っていろ嵐が過ぎりゃ/帰る日も来る春も来る」という唄を口ずさむ。
調べてみるとこの唄の名は「異国の丘」といい、増田幸二作詞・吉田正作曲、昭和23年(1948)のものらしい。映画はこの10年後のものだ。戦地に行った人とそれを待つ人を唄った、この時期だからこその切ない曲調である。
三人で浅草に遊びに行った帰り、土砂降りの雨に遭遇して、宿屋でひと休みすることを提案するのは山田五十鈴のほう。そのまま川の字で眠ろうとするが、三船はなかなか寝付けず、山田に向かい「そっちに行っていいか」と訊ねる。でも山田は拒否。
結局三船はすやすや眠っている子供を越えて山田に抱きつくと、夫の影をふりはらうかのように山田は強く三船を抱きしめる。三船もシベリア抑留からの引揚者で、帰ってみると妻は他の男のもとで暮らしていたという悲しい過去を持つ。敗戦直後はこんな人間模様がよく見られたのだろうか。
山田が夫を忘れ三船を頼ろうと決めかけたとき、三船は事故死してしまう。放心状態で三船が寝泊まりしていた荒川河川敷の小屋を出て、土手を歩くと、次から次へトラックが土煙をあげながら猛スピードで脇を通り過ぎてゆく。息子がふと土手脇の草むらを見ると、車にひかれたとおぼしい猫の死骸が転がっていた。
息子はまた「今日も暮れゆく異国の丘に…」と口ずさむ。それを聞いて山田は我にかえったような表情を見せる。これは、夫の帰還に希望をつなごうという気持ちの動きなのか。だとしたら実にこの映画は恐ろしくもある。
山田・三船ばかり注目してしまったが、この映画では、清瀬で闘病生活する夫を見守りながらパンパンとして食いつないでいる淡路恵子もまた、いいのである。