サスペンスフルな90分

紅の翼」(1958年、日活)
監督中平康/原作菊村到/脚本中平康松尾昭典石原裕次郎中原早苗二谷英明芦川いづみ滝沢修大坂志郎芦田伸介西村晃小沢昭一/安部徹/岡田真澄相馬幸子東恵美子/峯品子/清水まゆみ/山岡久乃下條正巳

1958年に封切られた石原裕次郎主演映画は、“日本映画データベース”によれば以下の9本。前年57年や翌年59年も同じくらいの本数に出演しているから*1、恐ろしい。

  • 「夜の牙」(1/15)
  • 「錆びたナイフ」(3/11)
  • 「陽のあたる坂道」(4/15)
  • 明日は明日の風が吹く」(4/29)
  • 「素晴しき男性」(7/6)
  • 風速40米」(8/12)
  • 「赤い波止場」(9/23)
  • 「嵐の中を突っ走れ」(10/29)
  • 紅の翼」(12/28)

このうちすでに観た「陽のあたる坂道」を除き、57年作品の「鷲と鷹」から、「俺は待ってるぜ」「夜の牙」「赤い波止場」と、封切順に観ていこうという計画で今回「紅の翼」を選んだのだが、あらためてデータベースで調べたらまったく勘違いしていた。「紅の翼」は年末封切ではないか。手もとにあって鑑賞可能な「素晴しき男性」「風速40米」を飛ばしてしまっている。律儀に観ているつもりであったが、間の抜けた話である。
さて中平康監督が「狂った果実」以来石原裕次郎と組んだ「紅の翼」だが、最初から最後までサスペンスフルにして手に汗握る内容で、90分があっという間だった。面白い。
石原裕次郎は民間航空会社のパイロット。やっぱりキムタクのようである。つくづく思うが、この時期の裕次郎映画は、これだけの本数が次々と制作されることもあってか、手をかえ品をかえ、石原裕次郎という不世出のスターをいかに魅力的に見せるかという点で人物設定やストーリー展開、演出などが工夫されているから、つまらないものはほとんどない。
クリスマスイブの日、八丈島で子供が破傷風に罹ったものの、血清がなく一刻を争うというなかで、血清を八丈島に届けるべく、セスナ機で石原裕次郎が飛び立つという筋。中原早苗(キュート)は新米雑誌記者で、これは美談になると踏み、自らてきぱきと連絡して血清を空港まで届けるよう手配し、セスナ同乗を取り付ける。もともと八丈島行きの飛行機をチャーターしていたのは二谷英明で、実は彼は殺し屋なのである。
冒頭殺し屋の目線からの映像で社長が銃で撃たれるシーンで始まる。殺される社長が安部徹。なんと開始3分で殺されてしまうという哀れさ。石原・二谷・中原三人でセスナに乗り込み、二谷が凶悪犯人であることがばれてから、残る二人は二谷に銃を突きつけられ、脅される。
そのときのトラブルでセスナが故障し、新島の元陸軍飛行場に不時着、三人は一夜を過ごす。空港では遭難かと騒然となっており、石原の家族(妹が芦川いづみ)、中原の家族(父親が滝沢修)が集まってくる。滝沢修は航空会社(担当が西村晃)の対応の悪さをなじりつつ、中原の同僚小沢昭一がつい彼らを遺族呼ばわりしたため(このあたりこの映画で唯一笑えるシーン)、激昂して見せ場をつくる。また石原との約束を反古にしたため石原がセスナを操縦することになったと泣きわめく恋人でスチュワーデスの峯品子に向かい、毅然と抗議する芦川いづみの凛々しさも、ファンとしてはたまらない。
空港を飛び立つとき、セスナ機の操縦機器をひとつひとつチェックする場面(石原が操縦レバーやボタンを動かすと、次のシーンは対応する部位が動くという細かい編集)や新島から八丈島に向けて明け方に飛び立つシーンは、監督して見せ場だったらしい。大きな流れとしてのストーリー展開も、細かなシーンや特撮場面も、また伏線となる小道具の使い方も間然するところがなく、セスナが飛び立つときにバックに流れる主題歌も颯爽と格好いいし、ほぼ完璧な映画と言っていい。
二谷英明の死に様が呆気なかったのがちょっと可哀想といえば言える。大坂志郎八丈島で子供を看病する医師の役。
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*1:57年は助演も含め58年同様9本。「幕末太陽傳」「勝利者」「鷲と鷹」「俺は待ってるぜ」「嵐を呼ぶ男」など。59年は10本。「若い川の流れ」など。