情けない森雅之

「妻として女として」(1961年、東宝
監督成瀬巳喜男/脚本井手俊郎松山善三高峰秀子淡島千景森雅之/星由里子/大沢健三郎/仲代達矢水野久美飯田蝶子淡路恵子丹阿弥谷津子藤間紫中北千枝子中村伸郎賀原夏子/十朱久雄/関千恵子

本妻(淡島千景)と妾(高峰秀子)の間に立って何もできず、「このままでいいじゃないか」などと堂々と主張する建築系の大学教授森雅之のふがいなさに、同じ男として苛立ってしまった。
森の子供を二人産みながら奪われ、銀座のスナックを任され、毎月10万を淡島に入れ、自分のお金で食器などを揃えていったのに、最後には店まで奪われてしまう高峰。女性としてもっとも脂ののった時期を森に捧げたのに、店も奪われ、はした金同然の手切れ金で縁を切られそうになってからの逆襲に、思わず感情移入してしまって「行け行け!」という気持ちになってしまう。
大人たちの身勝手な行動に嫌気がさした星由里子と大沢健三郎姉弟。完全に崩壊してしまった森と淡島の夫婦関係を尻目に、この二人の上にだけ「まだまだ君たちには未来があるぞ」とエールを送っているかのようなラストだった。
空襲で家族中たった二人だけ生き残り、一緒に高峰と暮らしている祖母に飯田蝶子。歯切れのいい喋りと台詞回しで、このおばあさんはいったい誰なんだと訝っていたが、飯田蝶子だったとは。わたしの知っているイメージと違っていたのは、入れ歯をしているような口元だったゆえか。
3月に「石中先生行状記」を観て以来の成瀬作品だが、やはり成瀬映画は構成がしっかりしているから安心して観ていられる。身も蓋もない女性たちの愛憎ドラマで最初から最後まで一貫してしまうのだから、小津映画とまた違った意味で、この時期の映画のなかで「異様」だったのではあるまいか。