二歳児も遊ぶ手を止めた

俺は待ってるぜ」(1957年、日活)
監督蔵原惟繕/脚本石原慎太郎石原裕次郎北原三枝二谷英明/小杉勇/波多野憲/草薙幸二郎/植村謙二郎

蔵原惟繕監督のデビュー作。石原裕次郎は、横浜の波止場にある船員相手の食堂で働きながらブラジルに渡った兄からの連絡を待つ元ボクサーという役。将来を嘱望された歌手で、喉を駄目にしてからはキャバレーの雇われ歌手になりさがり、その境遇が嫌で逃げてきた北原三枝を匿うことで、石原はキャバレーの経営者である二谷英明一味につけ狙われる。実は石原が待っていた兄は、渡航前に二谷に殺害されていたのである。
物語は石原が兄の行方を追いかけ、真実を明らかにしてゆくというミステリータッチで進行する。最初は「台詞がくさいなあ」と思いながら観ていたが、次第にミステリー味に惹きつけられた。わたしにとっては前に見た「鷲と鷹」よりも随分面白く感じたのである。港というより波止場と表現したほうがいいような無国籍的雰囲気と白黒の画像がフィルム・ノワール感を醸成している。
関川夏央さんは『昭和が明るかった頃』(文春文庫)のなかで、裕次郎と敵役の二谷英明が立ちまわりをするラストシーンは、蔵原のシャープかつモダンなセンスが十二分に発揮されて日本映画の暴力描写中屈指のものになった」(106頁)と指摘するが、たしかに息を呑むラストだった。機関車トーマスのおもちゃで遊んでいた2歳10ヶ月の次男が、テレビに流れている殴り合いのシーンに思わず手を止め、エンドマークが出るまで見入っていたのが良い証拠である。
余談だが、この映画での石原の役名は「島木譲次」。名前を見て「あれれ」と思った。吉本新喜劇パチパチパンチの島木譲二と関係あるのかしらん、と。Wikipediaの「島木譲二」項によれば、まさに芸名はこの映画の役名に由来しているらしい。しかも生前の石原に使用許可を求めに行ったらしいという話まである。島木さんは映画の島木譲次同様元ボクサーだったのか。ひとつトリビアルな知識が増えた。
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