チャーミングな岡田茉莉子

「花嫁のおのろけ」(1958年、松竹)
監督野村芳太郎岡田茉莉子高橋貞二/小林トシ子/佐田啓二日守新一石浜朗/瞳麗子/伊藤雄之助/朝岡雪路/宮城千賀子

三百人劇場野村芳太郎特集と符節を合わせるように、CS放送でも野村芳太郎監督作品が立てつづけに放映されているので録画する。たんにくだんの特集で野村芳太郎の名前を気にするようになったためだろうか。「観賞用男性」「きんぴら先生とお嬢さん」などがそれで、今回観た「花嫁のおのろけ」もそう。三百人劇場でも上映された作品だ。
32歳大学助教授の高橋貞二は、弟(石浜朗)の学生結婚に刺激されて結婚を決意する。それから相手を見つけようと見合いを重ねるなどした果てに見つけた相手とは…というコメディ。岡田茉莉子高橋貞二の親類で、彼の結婚相手探しに何かと世話を焼く。本当は高橋を好きなのだけれど、高橋は実は彼女の姉(小林トシ子)と昔から恋仲で、姉に譲ろうと決意するけなげさ。
小林の前夫は佐田啓二で、彼は捕鯨船の船員であるため、稀にしか帰ってこない。二人の仲はすれ違い、離婚に及ぶのである。熊沢伝七という役名と、相変わらずの髪型でオシャレに決めた佐田啓二捕鯨船というのがミスマッチ。南氷洋に向かおうと出発する船でもスーツを着ているから、捕鯨担当ではないのだろう。
高橋貞二の父親役で、女性に目がない元軍人、むかしパリに駐在したことがあり、フランス語に堪能というヘンな役に日守新一。存在感たっぷり。存在感たっぷりと言えば、やはり伊藤雄之助。端役かと見まごう街頭の手相見易者役なのだが、映画のなかの恋人たちの運命を左右する判断を下すという意味で重要な役柄。しかもエンドマークは伊藤の出演場面に出てくるから、野村監督はこの独特の雰囲気を持った脇役者の効果的な使い方を心得ていると言うべきか。
今ひとたびの戦後日本映画」的視点で見ると、実は高橋貞二も復員兵なのだった。しかし気が弱いのですぐ捕虜になったというのがキャラクターにマッチしている。戦争の間に小林トシ子は佐田と結婚してしまうのである。終戦からまだ13年しか経っていないときに作られた映画、やはり戦争が微妙に絡んでいるが、むろん「銀心中」ほど深刻ではない。
「映画の昭和雑貨店」「銀幕の東京」的視点で注目すべきは、高橋貞二朝丘雪路とお見合いする場所として出てくる東京競馬場があげられる。背後に見える山々と左回りで広々とした風景から府中とわかる。また、岡田茉莉子が高橋と小林を引き合わせる銀座のデパートの屋上。小鳥が売られていたり、子供が遊べる程度の遊具があったり、また背後に例の森永製菓の地球儀が見える。松坂屋の屋上ででもあろうか。
ベレー帽をかぶったり、ショールを「真知子巻き」風にしたり、変化自在のファッションと、ボーイッシュなショートヘアとサバサバした話し方が何ともかわいい岡田茉莉子に注目の映画である。