病床にて「銀座カンカン娘」

去年にひきつづき、またしても2月になってインフルエンザ(A型)に罹ってしまった。3日間寝込んでようやく熱が平熱に戻ったものの、まだふらふらする。
去年は珍しく予防注射を打って万全の体制でシーズンを迎えたのに罹患し、しかもインフルエンザと判るのが遅かったため、特効薬を服用する時機を逸し、散々苦しんだ。予防注射を打っても罹るものは罹る。予防注射は値がはるのだ。今年は注射は子供だけにしたところ、1月中旬、まず長男がA型をどこからかもらってきた。うつっても仕方ないやと、マスクもせず普通に暮らしていたところ、どうやらうつらない。予防注射をしてもうつるし、患者と同居生活をしてもうつらないことがある。人生こんなもんだと甘く見ていたら、見事に罹患してしまったのだった。
去年はインフルエンザのために出張に行けなかった。今年もまた、昨日今日と予定されていた横手での会議をキャンセルせざるをえなかった。キャンセルどころか、会議そのものを延期させてしまい、他のメンバーに迷惑をかける始末。体調管理の疎かなることを反省することしきりだった。
薬(タミフル?)を呑んでいろいろな夢を見ながら寝続けたすえ、熱が37度台前半で安定してきたのが昨日の午後。寝起きして活字を見たり、テレビを見たりすることがかろうじて可能になった。それにしても、本を数行読んだら疲れてしまうという経験は初めてだ。
そんなインフルエンザ治りかけのわたしにとって、恰好の特効薬となったのが、昨日放映された「銀座カンカン娘」だった。この映画を観るのは三度目(→2004/1/25条・→2004/9/17条)。高峰秀子笠置シヅ子、岸井明や灰田勝彦が唄う陽気な「銀座カンカン娘」のメロディは心を癒し、ラストでたっぷり古今亭志ん生の「替り目」を聴いて朗らかに観終える快感はたぐいまれな味わいで、いまのところわたしのオールタイム・ベストと言ってもいいほどの映画である。この映画をDVDに録画することができたことが嬉しい。
多少熱が残る頭ではあったが、映画で流れる「銀座カンカン娘」のメロディを口ずさめば病も吹き飛ぶというものだ。おかげで一日経った今、このように感想を書くことができるまで回復した。
DVDに録画した余禄というべきことは、最初に観たときから感じていたロケ地に関する疑問が解決したことだった。居候先のおばさんである浦辺粂子から捨ててきなさいと命じられた子犬を抱えて途方に暮れた高峰秀子は、ある庭園へまぎれ込む。おりしもそこでは映画の撮影中で、犬を出したいと監督から突然言われ犬探しに奔走していた助監督(?)に高峰の子犬が目をつけられる。
高峰とその子犬、そして噴水の中に放り込まれるのがいやだと駄々をこねた女優の代役として噴水に投げ込まれる笠置シヅ子がバックにしている豪壮な噴水を有する庭園、洋館はいったいどこなのだろうかと思っていたのだが、今回映像をストップさせながら手近にある資料写真と突き合わせ、これがようやく迎賓館であることがわかったのだった。
映画のロケが行われ、笠置シヅ子が投げ込まれる噴水があるのは正面の反対側(裏側、南側)にあたる。噴水の雰囲気や建物の形がピタリ一致した。
現在迎賓館は赤坂離宮として、年で一定期間しか一般公開されていない。ましてや映画のロケなど不可能なのではあるまいか。映画を観ると、ロケをしている向こう側に、一般の人がたくさんいて、散策している風情がある。それよりなにより、笠置シヅ子は噴水に投げ込まれるのである。高峰秀子は、ここに子犬を捨てようとしているのである!
この「銀座カンカン娘」は昭和24年に制作された。調べてみると、迎賓館は終戦直後の一時期国立国会図書館の庁舎として使われていたことがあるらしい。とするならば、あの赤坂離宮の地域は、ある程度一般の人々も自由に入って構わなかった時期があり、「銀座カンカン娘」はちょうどその時期に撮影されたということになるだろう。
迎賓館をロケ地に使ったなんとも贅沢で貴重な映画だったのである。
【補記】迎賓館のことを調べていて、強いデジャ・ヴュに襲われた。以前も同様の調べ物をしたことがあるか、ほかの人からこの話を聞いたことがあるか、この話を本で読んだことがあるような気がしてきたのである。すっかり失念しているとはいえ、他人の説を自説のように語ったのであれば一大事だ。どなたかこの話をご存じの方がいましたらぜひご一報ください。

「銀座カンカン娘」(1949年、新東宝) ※三度目
監督島耕二/高峰秀子灰田勝彦笠置シヅ子古今亭志ん生/岸井明/服部早苗/浦辺粂子