土曜ワイドへの郷愁

「女体渦巻島」(1960年、新東宝
監督石井輝男吉田輝雄三原葉子天知茂/万里昌代

とうとうカルトな「新東宝映画」にまで触手を伸ばしてしまった。わたしはいわゆる「新東宝映画」のことはまったく知らないのだが、説明によればこの「女体渦巻島」は、石井輝男監督作品に多く出演する吉田輝雄の初出演作だったり、新東宝が誇る「二大ヴァンプ女優」三原葉子・万里昌代が出演していたりと、話題性があるらしい。
タイトルにある「渦巻島」というのは対馬のことで、冒頭いきなり、「東洋のカサブランカ」という字幕が出て、対馬は海賊の根城となって以来悪が潜み、はびこる島となったという紹介には思わず苦笑してしまった。
川本三郎さんや鹿島茂さんの文章を読むと、ときどき若かりしころ胸ときめかせたグラマー女優として、三原葉子の名前があがっていたように記憶する。このあいだ出た鹿島さんの新著『甦る昭和脇役名画館』(講談社)では、「生涯一エロ女優の心意気」というタイトルを付けて一章が割かれている。
この映画のストーリーはともかく、観ていて感じたのは、「まるで『土曜ワイド劇場』のようだ」というものだった。「土曜ワイド」と言っても、具体的には天知茂が主人公の明智小五郎シリーズである。妖しげな雰囲気と安っぽいアクション、全体を覆う暗い色調、二十年以上前に観た「土曜ワイド」そっくりだった。
いや、そっくりというのは逆か。わたしはあまり知らないのだが、これら石井輝男監督作品を始めとする新東宝映画のテイストが、土曜ワイド劇場のある種の作品群に流れ込んでいるらしい。
思春期のころ、親も寝静まった夜、一人でドキドキしながら観ていたのが「土曜ワイド」で、とりわけ天知茂明智小五郎シリーズと、古谷一行木の実ナナ常田富士男の「混浴露天風呂」シリーズがお気に入りだった。明智小五郎シリーズの暗さ妖しさと、混浴露天風呂シリーズのお色気がたまらなく懐かしい。あの頃は、「土曜ワイド」程度のエロ・グロでも一人で観るのが心細く、少しでも怖い内容の作品を観ると、眠れなくなったのである。