耳に残るドンドンドドン

「破れ太鼓」(1949年、松竹京都)
監督木下恵介阪東妻三郎/村瀬幸子/森雅之/小林トシ子/桂木洋子/木下忠司/大泉滉宇野重吉滝沢修東山千栄子小沢栄太郎沢村貞子

今回の帰省で実家に持ち込んだDVDは6枚。それぞれ違う監督の作品を選んだ。木下恵介監督作品のなかから持ってきたのはこの「破れ太鼓」だ。
実は観て数日経ってからこれを書いているのだが、いまだに映画のなかで唄われる「破れ太鼓」の歌のサビの部分(「ドンドンドドン ドンドドンドドン」というあそこ)が頭から離れない。監督の実弟である木下忠司が次男役として出演し、家のピアノを弾きながら「親父の歌」ということで何度も何度も挿入歌として歌われる。
子供たちがうるさく遊んでいるかたわら、DVD鑑賞を強行した。子供たちはモノクロの映画ということで見向きもしないのだけれど、この歌が流れると次男は遊ぶ手が止まり、テレビ画面に顔を向ける。長男は映画が終わってからも「ドンドンドドン」と口ずさんでいた。それほどあの挿入歌(主題歌と言うべきか)はインパクトが強烈だったと言うことだろう。単純なメロディながら頭に残る。
自分の建設会社に勤めさせて後継ぎ教育をしていた長男の森雅之に家出され、さらに妻や子供数人にもそっぽを向かれ、あげくの果てに会社がつぶれてしまい失意のどん底にある阪妻は、唯一残った木下忠司に「あの歌を弾いてくれ」とリクエストを出す。
大好物のカレーライスを食べながら、「破れ太鼓」の歌が流れるシークエンスがなんとも切ない。裸一貫で苦労しながら建築現場で働き、会社をここまで築き上げてきた自分の半生が回想場面として流れ、涙を流しながらカレーを頬張る阪妻のシーンと交互に出てくる。
わたしは阪妻の映画を観るのは初めてで、阪妻を語るには時代劇を観なければならないとは思うのだが、この現代劇である「破れ太鼓」一本を観ただけでも、阪妻という大スター俳優の魅力がわかったような気がして、代表作を観たという満足感を得た。尊大さと弱さを兼ね備えた建設会社社長の人間的魅力が、振る舞いと顔の表情の多彩な変化で見事に表現されている。