はじめて観る雷蔵映画としては

大菩薩峠」(1960年、大映
監督三隅研次/脚色衣笠貞之助市川雷蔵中村玉緒山本富士子本郷功次郎笠智衆/見明凡太朗/島田正吾

先日の川本三郎さんの講演会(→10/1条)で、市川雷蔵ファンの多さ、熱心さを目の当たりにしたら、やはり出演映画を観なければ気がすまなくなる。読んだことはないけれど、何かと耳にすることが多い「大菩薩峠」を一番最初に観ることにした。
結論から言えば、この映画は市川雷蔵の魅力を味わううえでは適当ではないかもしれないということと、映画自体も上出来とは言えないのではないかと感じた。
川本さんの講演会でも、時代劇における中里介山大菩薩峠』という作品の重要性が指摘され、また主人公机龍之介の虚無さが時代劇ヒーローとして際立っていることが語られていた。『時代劇ここにあり』*1平凡社)にも「大菩薩峠」は取り上げられているけれども、岡本喜八監督版(仲代達矢主演、橋本忍脚本)の作品のほうだった。
このなかで川本さんは、「大菩薩峠」には、内田吐夢版(片岡千恵蔵主演)・岡本喜八版・三隅研次版(雷蔵主演)の三つがあるとしたうえで、内田吐夢版を「傑作の誉れ高い」、岡本喜八版を「圧倒的な迫力」とするものの、この三隅研次版は「ストーリーを追うだけで精一杯、面白みには欠ける」(91頁)と評価は低い。
たしかにそのとおりで、三部作ではありながらも、大長編を無理やり圧縮したためにストーリーが飛躍してしまい、場面転換の直後戸惑う部分が少なからずあった。この第一作も、狂気に陥った机龍之介がいざ宇津木兵馬(本郷功次郎)と対決といういい部分で終わってしまい、その作品単体で完結せずに「あれれ」とがっくりきてしまう。
雷蔵の魅力という点でいえば、この映画だけでは何とも言えない。ただ、やはり雷蔵は時代劇の主役がぴったりだという気はする。ちなみに川本さんは、雷蔵机龍之介は、とくに仲代達矢とくらべ「動かない市川雷蔵は冷静すぎて、剣に取り憑かれた感じがしない」(93頁)とこれも辛い。
チャンバラ映画としては殺陣の魅力も欠かすことはできないだろうが、この映画の殺陣が素晴らしいかと言えば、観る者をうっとりさせるような鮮やかさとまでは言えないかもしれない。
冒頭祖父を雷蔵に叩き斬られた山本富士子を助ける盗賊の七兵衛がけっこうおいしい役どころで、この映画では見明凡太朗だった。あとで本郷功次郎が入門する御徒町の道場主島田虎之助役の島田正吾と似ていて、島田正吾の二役なのだと勘違いしてしまった。まだ時代劇に馴れきっていない。
映画を観て、「大菩薩峠」という小説は幕末、新撰組と関わりがあるという事実をいまごろ知った。原作をいずれ読むことができればなあと思う。