いまごろ「二十四の瞳」

二十四の瞳」(1954年、松竹)
監督木下惠介/原作壺井栄高峰秀子月丘夢路/夏川静江/天本英世田村高廣笠智衆浦辺粂子清川虹子浪花千栄子

家で仕事をしながら観ていたせいか、前半あまり気を入れて観ていない。「二十四の瞳」は原作も未読だし、他のバージョンもまったく観ていないので妻に珍しがられてしまった。これが初めてなのだ。
名作の世評が確立している作品だからいまさらという気がしないでもないが、やはり感動的。最後は高峰秀子に感情移入してしまってうるうるしてしまった。小豆島の小学校に赴任してきた高峰秀子と子供たちの物語だとばかり思っていたら、成長した子供たちと高峰のその後(戦後)まで追いかけた大河映画だったとは知らなんだ。
退職して、戦争で夫(天本英世)を失い、また事故で長女を失った高峰は、ふたたび小豆島の分教場に勤める。その教室には、かつての教え子の子供や妹らが生徒でいて、思わず涙。また戦死した教え子の墓前に詣でては涙。子供たちからはさっそく「泣きみそ先生」というあだ名をつけられてしまう。
そのかつての教え子たちは月丘夢路の家でやっている料理屋で謝恩会(歓迎会)を開く。12人の教え子のうち、女子5人男子2人が集まる。男子のうちの一人が、戦争で視力を失った田村高廣田村高廣高峰秀子といえば、同じ木下監督の「笛吹川」では夫婦役ではなかったろうか。また野村芳太郎監督の「張込み」では恋人同士の役だ。
ちょうどこれを観ながら夕刊(朝日)を開いたら、今年喜寿を迎えたという当の田村高廣さんのインタビューが載っていてびっくりした。記事中には、この「二十四の瞳」は出演第二作目だったとある。記事にひととおり目を通したあと、田村さんの登場シーンが。奇しき偶然。これまた「東京奇譚」だ。
高峰さんは、溌剌と若々しい新任教師役から老け役まで、まるで違和感がない。変わりようが見事なので、「二十四の瞳」は全編同じ時期に撮ったんだよなと訝ってしまうほど。これまた老婆にまで扮した「笛吹川」を思い出してしまう。
謝恩会で、かつての教え子たちから自転車を贈られた高峰さんが、床の間に置いてある自転車(!)を見て涙したシーン、わたしも胸が熱くなった。