親類づきあいの不思議

「めし」(1951年、東宝)※二度目
監督成瀬巳喜男/原作林芙美子/脚色井出俊郎・田中澄江/美術中古智/上原謙原節子島崎雪子杉葉子杉村春子小林桂樹中北千枝子浦辺粂子山村聰

今年生誕100年を迎え、日本映画専門チャンネルで成瀬映画を録りため、観るようになるまで、わたしが好きな成瀬映画は、順不同に「浮雲」「驟雨」「稲妻」「めし」といったあたりだった。
このうち「めし」を再見する。2003年4月にフィルムセンターで観て以来二度目である。この間、美術を担当した中古智さんや、原節子の義弟役として、この映画が成瀬映画の初出演作となった小林桂樹さんの証言を読んだり、帰省した原節子の実家のあった川崎矢向を訪れたりと、少し「めし」についての知識がついたうえでの再見であった。
原節子が降り立つ矢向駅がちらりと登場するが、先日訪れた矢向駅のたたずまいとほとんど変わっていないのにびっくり。建物の構造自体は変わらず、外面を補修しただけだと聞いていたが、それをあらためて確認する。
原節子の母親役である杉村春子の重厚感に深く感銘を受ける。何と言ったらいいのか、観ていて安心するような感覚。晩鮭亭さん(id:vanjacketei)は「流れる」での杉村の演技に高い評価を与えられていたが、この「めし」もまた、素晴らしい。いずれ近いうち彼女の主演作「晩菊」を観ねばなるまい。
原節子の幼なじみで、川崎の職安前で出会う中北千枝子。前回観て以来、戦地から戻ってこない夫を待ちわび、女手ひとつで子どもを育て疲れた寡婦というイメージを持っていたが、今回観直してみて、意外に前向きで懸命に働く女性の役であったことを知る。これまた「流れる」での倦怠感がまとわった芸者の役と混同したのだろう。
山村聰の名前がタイトルロールに出ていたのだが、確認できぬまま最後まで来てしまった。あとで役名を確認すると、上原謙の家の前に妾を囲い、彼に転職を誘う男の役だった*1。今度観るとき要確認。
今回観ていて気づいたのは、濃密な親戚づきあいの輪ともいうべき現象である。血縁にかぎらない。結婚を機に親戚になった、いわゆる姻戚関係においても、作品中の登場人物たちはお互いを頼り、親身になって気づかう。
たとえば上原謙の姪(兄の娘)島崎雪子が、家出して突然大阪の上原・原夫婦の家に転がり込む。原節子は、大阪に住んでいるおじ夫婦(おじ・おばいずれが血縁なのか、父方なのか母方なのか不明)を頼り、帰省のためのお金を借りようとする。彼らの子どもで原には従兄弟にあたる太刀川寛は彼女を気づかって東京に帰る時同じ列車に乗り、東京ではデートする。原が去ったあと、上原はそのおじ夫婦の家を訪れ、夫婦の問題を相談し、逆に転職を勧められる。
東京(矢向)では、上原と血のつながった姪である島崎が、また家出をして今度は義理の叔母である原節子の実家に転がり込む。原節子実妹役の杉葉子や、その夫の小林桂樹はまるで自分の血縁の親類のように島崎のことを心配する。逆に原は夫の兄の家にあたる島崎の家を訪れ、その妻の長岡輝子とふつうに会話する。
親類づきあいが稀薄になっただけでなく、核家族化などにより親類そのものも少なくなった現代を生きるわたしとしては、「めし」に見られる垣根を感じさせない、濃密な親類づきあいに、とても不思議な印象を抱くのである。

*1:【後記】これは私の勘違い。上原謙の兄、島崎雪子の父親の役である。なぜ見逃したのか疑問だ。