これまでの人生にひとしいほどの
今年は映画をよく見た一年間だった。下にリストを掲げるが、レンタルして家で見たもの(8本)を含め36本。映画ファンにしてみれば「それでよく見たといえるのか」と呆れられそうだが、映画を見るという習慣がほとんどなかった私にしては、これはひとつの「事件」「転機」と言ってよい。多少大げさに言えば、これまでの36年間で見た映画に匹敵する本数を今年一年間で見たかもしれないというほど。
「スウィング・ガールズ」「珈琲時光」のように見たい新作映画もあったのだが、結局見ることができていない。したがってすべて旧作である。いまだに映画館に座ると息苦しくなるという精神的(?)な症状がつきまとったままで、加えて新作映画の大音響なども心臓に悪いのではないかという懸念があるので、躊躇してしまうのだ。
先日見た「獄門島」ですら、ショッキングなシーンははたして耐えられるのかという不安を抱え、手に汗を握りながら見る始末。実際には、千恵蔵版「獄門島」は死体発見のシーンも至極あっさりしており、怖がることはなかったのだった。昔は横溝映画はおろか、スプラッター・ホラーですら好みのなかに入っていたというのに、この変わりよう。
「特急にっぽん」「やっさもっさ」「バナナ」「青春怪談」「娘と私」と、獅子文六原作の映画を5本も見ている。このうち再見の「青春怪談」(これは傑作だと思う)を除き、質の高さでいえば「娘と私」、面白さでいえば「バナナ」をあげたい。
その他文芸物をあげるときりがなくなるが、高峰秀子と幸四郎・吉右衛門兄弟の好演が印象深い「笛吹川」(原作深沢七郎)、高峰秀子・芥川比呂志の共演「雁」(森鴎外)、東大前の古本屋の娘を演じる若尾文子が初々しい「永すぎた春」(三島由紀夫)あたりが印象に残っている。
泣かされたのは「子供の眼」「娘と私」だった。いずれも子供がらみ。こういう物語にいちじるしく弱くなってしまった。
「いい映画だなあ」としみじみ感じ、一緒に見ていた他のお客さんとそんな雰囲気を共有できた映画としては、笠智衆・山田五十鈴のやさしい親がつくる暖かなホーム・ドラマ「我が家は楽し」と、流れる歌を聴くだけで心が軽やかになる「銀座カンカン娘」に指を屈する。あとは、一シーンも揺るがせにしない緊密な映画、切なくて切なくて、胸が苦しくなる「稲妻」も良かった。成瀬巳喜男監督作品でいえば、「妻」も良かったなあ。
さて来年はその成瀬監督生誕100年という区切りの年。フィルムセンターで特集上映があるし、世田谷文学館では「成瀬巳喜男展」も開催される。成瀬映画をたくさん見て、また新たな感動を得られるような一年であってほしいものである。
【2004年に見た映画のリスト】
- 「獄門島(総集編)」@フィルムセンター
- 「特急にっぽん」@フィルムセンター
- 「もず」@フィルムセンター
- 「麻雀放浪記」@フィルムセンター
- 「笛吹川」@フィルムセンター
- 「子供の眼」@フィルムセンター
- 「雁」@フィルムセンター
- 「我が家は楽し」@フィルムセンター ※再見
- 「花籠の歌」@フィルムセンター
- 「銀座カンカン娘」@フィルムセンター ※再見
- 「孫悟空(前篇・後篇)」@フィルムセンター
- 「渡り鳥いつ帰る」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「稲妻」@フィルムセンター ※再見
- 「悪女の季節」@三百人劇場
- 「憎いあンちくしょう」@レンタルビデオ
- 「やっさもっさ」@三百人劇場
- 「気違い部落」@三百人劇場
- 「バナナ」@三百人劇場
- 「本日休診」@三百人劇場
- 「七人の侍」@レンタルDVD
- 「如何なる星の下に」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「青春怪談」@録画DVD ※再見
- 「どですかでん」@レンタルDVD
- 「旅役者」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「妻」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「ゼロの焦点」@レンタルビデオ
- 「煙突の見える場所」@フィルムセンター
- 「流れる」@録画ビデオ
- 「海軍」@フィルムセンター
- 「永すぎた春」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「我が家は楽し」@シネマジャック
- 「音楽大進軍」@フィルムセンター
- 「砂の器」@レンタルビデオ
- 「娘と私」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「銀座カンカン娘」@ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「張込み」@レンタルビデオ
以上に加え、今日NHK-BS2でやっていた石原裕次郎・芦川いづみの「喧嘩太郎」を見た。原作は源氏鶏太。年末年始で読んでいる小林信彦さんの『夢の砦』(新潮社)の最初のほうに、石原裕次郎が源氏鶏太原作の映画に出演していることを揶揄する一節があったけれど、この作品がそれにあたるのだろうか。まあ芦川いづみファンとしては、彼女が相変わらずキュートだったのでそれで満足なのだが。