夢のような

本日から始まった種村さんセレクトによる映画上映だが、初日の「東海道四谷怪談」・「KINTOKI」(種村さんが出演)・「木乃伊の恋」(鈴木清順監督によるテレビドラマ)は観ず、入場無料の対談のみを聴く。
駿河台にあるアテネ・フランセに行くのは実は初めてである。水道橋、お茶の水橋いずれを渡ってもそのまま神保町方向に足を進めてしまい、それぞれを結ぶ界隈を歩いたことがなかった。仕事帰りに立ち寄ったのだが、逆方向に(つまり御茶ノ水駅に)向かうサラリーマンや学生さんたちが多い。憧れのアテネ・フランセ、建物自体はかなりくたびれた感じなのだが、「文化の香り」がただよっているように感じるのは思い込みすぎか。
さて対談。種村さんと川本さんの対談をじかに聴く機会があるなんて、夢にも思っていなかった。お二人の姿を見ながらジーンと胸が熱くなる。種村さんは一時体調を崩されていたと仄聞しており、以前お会いしたときよりもお痩せになった姿を見てショックを受けたのだけれど、お話は相変わらず博覧強記の“種村節”ですこぶる刺激的だった。川本さんがついて行けないほど次々と繰り出されるイメージの連鎖で、丘と水という二つのイメージを対比しつつ、「東海道四谷怪談」には日本の農本主義的風景が見られると精神分析的手法を駆使して指摘する話を聴きながら、やはり種村さんは凄い人であることを実感する。
お二人の話はまず三橋達也さん急逝の話題から入った。種村さんが、雨の並木座洲崎パラダイス 赤信号がかかったときに川本さんとお会いした話を披露、次いで川本さんが、三橋さんの訃報記事のいい加減さに憤っているという発言。三橋さんを「アクション俳優」と呼び、代表作の選び方もまったくズレているのは怪しからんことで、三橋さんといえば日活の川島雄三監督作品であると断言。
昨日三橋さんの訃報を知ったとき、乏しい映画鑑賞体験のなかで思い浮かべた作品は、市川崑監督の「青春怪談」であり、成瀬巳喜男監督の女の中にいる他人だった。今日のお二人のお話を聴いて、そう、よく考えれば「洲崎パラダイス 赤信号」があるではないかと膝を打った。あの間然するところのない名作を忘れているなんて。黄金期のこうした名作群をどこかで上映してくれないものか。
帰り道、種村さんと川本さんの対談を聴くことができた幸せを噛みしめながら駿河台から坂道を下っていったのだった。
会場でお会いしたやっきさんから、録画をお願いしていた映画・テレビドラマなどのビデオテープやDVDをいただく。このなかにはすっかり忘れていた「青春怪談」も含まれていた。三橋達也さんを追悼しながら見直してみたい。その他宮部みゆきさんの「理由」のドラマや先日再放送された「國語元年」の前半部分、小津映画(「秋日和」「浮草」)など。また阿佐ヶ谷生まれ同士の久世光彦さん川本三郎さんによる対談が入っている『銀座百点』2002年7月号や別冊宝島 帝都東京』まで頂戴。感謝申し上げます。
帰宅したら、先の週末ネット古書店を徘徊していて見つけた本が届いていて歓喜