山田五十鈴恋し

  • シネマジャック@横浜(「女優スタイル お手本は、岸惠子岸惠子映画特集」)
我が家は楽し」(1951年、松竹)
中村登監督/笠智衆山田五十鈴高峰秀子岸惠子佐田啓二/高堂国典

森永製菓に勤める「万年課長」笠智衆一家の物語。世田谷羽根木に借家している夫婦と子供四人という六人家族。長女に絵描きをめざす高峰、次女に女学生岸惠子。この映画が岸惠子のデビュー作だという。岸惠子映画特集ということで上映されているものだが、私は母親役山田五十鈴見たさに、映画料金とほぼ同じ電車賃を払って駆けつけた。
子供たちのために内職をしてまで貧しい家計をやりくりし、なおも優しげな笑顔を絶やさぬ山田五十鈴、いい! 彼女は1917年生まれということで、この映画のときは34歳。老けるでもなく、みずみずしい若さがあるわけでもない、そのちょうど中間の年頃の女性の姿。映画の中では、17歳で笠と結婚して銀婚式というから、42歳という設定。
笠が勤続25年で会社から表彰され「給料二ヶ月分」の金一封(3万円)をもらう。その帰り道に夫婦で待ち合わせて日本橋高島屋で買い物をし、いきつけの飲み屋で盃を酌み交わす。だが帰りの電車の中でせっかくの金一封をすられてしまうというシークエンスが抜群に素晴らしい。これぞ夫婦愛。このところ古い日本映画を観て思うのだが、夫婦の間親子の間、「親しき仲にも礼儀あり」という良さがかつてあった。しみじみとした哀愁を漂わせながら、ハッピーな気持ちになるとてもいい映画だった。
川本三郎さんの『映画の昭和雑貨店』シリーズ5冊(小学館)では、この映画が実に多く取り上げられている。正6ヵ所・続4ヵ所・続々3ヵ所・続々々2ヵ所、完結編のみ0ヵ所。ベスト3はおろか、一番多いかもしれない。「昭和雑貨店」的モチーフがいたるところに散りばめられていた映画だったのは確か。スチール写真も多く掲載されて、山田五十鈴に惹かれたのもこれら写真がきっかけなのである。