スター交代

勝利者」(1957年、日活)
監督井上梅次/脚色井上梅次舛田利雄三橋達也石原裕次郎北原三枝南田洋子殿山泰司/安部徹

チャンピオンになる夢敗れ、資産家令嬢の婚約者(南田洋子)のおかげでキャバレーを経営して糊口をしのいでいる元ボクサー(三橋達也)が主人公。ボクシングチャンピオンになる夢を捨てきれず、代わりにチャンピオンを育てたいという野望を持っている。
そこで目を付けられたのが石原裕次郎。最初はただ殴り合いが好きで、ハングリーに練習してまでボクシングをやりたくないという根性がねじ曲がった男だったのだが、三橋のバックアップで頂点まで上りつめてゆく。
北原三枝バレリーナを夢見て新潟から上京し、三橋のキャバレーに踊り子として所属していたのだが、トラブルで郷里に帰ろうとするところ、三橋の目にとまり、石原と同じく三橋がパトロンとなってバレエ教室にひきつづき通うことになる。
物語は石原・北原二人のサクセス・ストーリーに、三橋・南田の婚約者同士が絡み、恋の四角関係が展開する。終盤、三橋が南田に愛想を尽かされ婚約指輪を返され、続いて石原も自分一人の力でチャンピオンになると三橋のもとから去り、北原まで三橋を捨てて立ち去ってしまう。「おいおい」と苦笑してしまうような展開で取り残された無惨なる三橋。あのような侘びしい役柄が妙に三橋に合っている。そのうち引き留めようとしたのが石原だったというのが、彼の意志を象徴している。
ところで末永昭二さんは『電光石火の男』(ごま書房)のなかで、この作品を「日活アクション映画の先駆」とする。当たらないというジンクスのあったボクシング映画を石原起用で撮ったことで、大ヒットを記録し、日活アクション映画に「ボクシングもの」というジャンルが加わったという。勝ち負けがはっきりして、勝つためにハングリーに精進するというあたり、この時代相にもマッチしたのかもしれない。
ラストが何とも印象的で、三橋が主役は君たちだとばかり石原と北原にエールを送り、一人取り残されたところに、婚約者だった南田洋子が歩み寄る。それまでの日活スター三橋・南田が、石原・北原二人にバトンを渡すという、スター交代を象徴する幕切れだった。末永さんも「新旧スターの交代を象徴する作品」と評価している。
勝利者」が日活アクション路線を決定づけ、石原・北原を前面に押し出したという評価はあとのものだが、井上監督はそういうつもりでラストを演出したのかどうか、意味深な場面なのであった。
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